司法書士コラム

相続人の確定に誤りがあった場合はどうなる? 遺産分割協議の注意点

2021.4.23

 被相続人の遺産をどのように引き継ぐかは大きな問題になります。
被相続人が遺言を残していれば、その遺言に従って遺産を分ければよいですが、遺言がないときには、遺産分割協議をすることになります。
 その際、実は遺産を分けなければいけない、予想外の人物が出てきてしまうこともあります。
 今回は、親族内で揉めてしまうことのないよう、遺産分割協議をするときの注意点を説明します。

とにかく戸籍を取得。思い込み判断はNG!

 遺産分割協議をする場合、『誰と』話し合うのかを確認すること、つまり相続人を確定する作業が最初の関門となります。
 被相続人に配偶者と子がいる場合など、相続人となりうる人の範囲が狭いときは、あまり問題は生じません。

 しかし、被相続人に配偶者も子もおらず、直系尊属もすでに亡くなっており、兄弟姉妹が相続人となるケースでは、この相続人を確定する作業に細心の注意が必要となります。
たとえば、兄弟相続の場合、相続人である兄弟自身も高齢になっていることが多く、すでに亡くなっている兄弟がいる場合には、代襲相続(本来相続人になるはずの人が死亡などの理由で相続できないときに、その人の子が代わりに相続する制度)が発生します。
そ こで、もし兄弟に隠し子がいた場合、その事実を知らずに遺産分割を進めてしまうと、本来であれば相続人の資格を持っている人を入れずに遺産分割協議を行うことになってしまいます。
そのようなケースでは遺産分割をやり直す必要が出てきてしまうため、相続人の確定は慎重に行うことが重要です。

相続人を確定するには、被相続人の『生まれてから死ぬまで』の戸籍謄本を取得します。
そして、兄弟相続になることが判明したら、以下の戸籍謄本を取得し、ほかに相続人になりうる人がいないか、くまなくチェックすることが大切です。

(1) 被相続人の両親の、婚姻できる年齢から死ぬまでの戸籍謄本
(2) 兄弟の、婚姻できる年齢から死ぬまで又は現在までの戸籍謄本
(3) 兄弟の子の現在の戸籍謄本

 手間のかかる作業ですが、遺産分割協議が整い、金融機関に相続の届出をする際にはこれらの戸籍謄本の提出を求められることがありますので、決して無駄な作業ではありません。
むしろ、協議が終わってから新たな相続人の存在が判明するよりは、この時点で隅々までチェックしておいた方が安心といえるでしょう。


続人の確定に誤りがあったときの対処法

相続人の確定は慎重に行うべきですが、それでも、遺産分割協議が終わった後に、次のようなことが起こりえます。

A. 一部の無資格者が協議に参加していたことが判明する
B. 相続人資格を有する者がほかにもいたことが判明する

Aのケースが起きるのは限定的な場面といえるので、ここではBのケースの遺産分割協議の効果と、対処法を説明します。

Bのケースでは、本来であれば相続人の資格を持っており、遺産分割協議に参加して自身の権利を主張できた人が、協議に参加できていないことになります。
したがって、当該協議には重大な瑕疵(かし)があったということになり、遺産分割の安定性よりも協議に参加できなかった人の利益を重視して、分割をやり直すべきであると考えられます。
そのため、まずは新たに相続人であることが判明した人に、連絡をとるところから始めることになります。

というのも、大半の場合、協議から漏れてしまった人というのは、被相続人やその他の協議を行っていた相続人との関係が希薄であることが多く、その人自身も、自分が当該被相続人の遺産を相続する立場にあることを認識していないことが多いのです。
そこで、まずはその人に連絡を入れ、遺産相続を希望するかどうかの意思確認から始めることとなります。
仮に、その人としても、被相続人およびその他の相続人との関係が希薄であることなどを理由に、当該遺産分割に関与することを希望しないということになれば、その人に相続放棄をしてもらうことができます。
そうすることで、その人は初めから相続人でなかったものとみなされ、すでに行った遺産分割協議が有効だということになります。

一方で、その人が遺産を相続することを希望する場合には、遺産分割協議は無効となり、再度すべての相続人間で協議する必要が生じます。
ただ、そのような場合にも、協議をし直すことによって、財産の移動を最小限に留める工夫を施せるのです。

このように、相続人の確定に誤りがあると、後になって複雑な問題が生じてしまいます。
相続が開始したら、まずは相続人確定を慎重に行うことが重要です。
それでも誤りが生じてしまったときには、専門家に相談するなどして、すべての相続人間で協議を進めながら、円満な解決を目指していきましょう。


※本記事の記載内容は、2021年4月現在の法令・情報等に基づいています。

相続登記の放置は危険! 勝手に登記される『代位登記』とは

2021.1.22

 相続財産に不動産がある場合、遺言書がなければ相続人全員で話し合って所有者を決め、所有権移転登記を行うことになります。
しかし、相続登記をするには手間がかかることから、所有権移転登記をせずに放置してしまうこともあるかと思います。
実は、この相続登記を放置していたがために、第三者から勝手に相続登記がなされる『代位登記』というものがあります。
 これはいったい、どういうものなのでしょうか。


債権者代位権による『代位登記』の仕組み

 『代位登記』とは、登記権利者に代位して第三者が登記申請を行うことを指します。
代位登記ができる要件については法律で定められており、『債権者代位権』という権利が根拠になっています。

 たとえば、相続人が第三者から借金をしており、その借金の返済が滞っているとき、債権者である第三者がその債権を守るために、相続人(債務者)に代位して不動産を相続登記することがあります。
これは、民法423条の債権者代位権という条文に定められている債権者の権利になります。
債務者が債権者に借りたお金をなかなか返さないとき、債権者としては何かを担保にしたいものです。
そんなとき、債務者が不動産を所有していれば、その不動産を差し押さえて競売にかけることができます。
そのために、債権者が代位登記をしてくるのです。
 つまり、相続登記を放置してしまっていたがために、所有権を失ってしまう可能性があります。
ちなみに、代位登記とはいえ、代位権者が所有権の割合まで決められるわけではありません。
あくまで、相続登記の場合は法定相続割合にのっとった代位登記が行われることになります。
 債権者となるのは一個人だけではありません。
固定資産税や相続税の滞納がある場合に、国が債権者として代位登記をしてくるケースもあります。

 
代位登記では登記識別情報はどうなる?

 登記申請を行ったときには、原則として登記識別情報が発行されます。
この登記識別情報は、次に登記申請を行う際の本人確認手段として使われる重要な番号です。
 しかし、代位登記されたときには登記識別情報が債務者に発行されないため、債務者、つまり不動産の所有者は登記識別情報を知ることができません。
登記識別情報がなければ登記義務者の本人確認ができません。
そのため、要件が揃わず、登記申請ができないことになります。
 ただ、登記識別情報がないからといって絶対に登記申請ができないわけではありません。
不動産を新たに遺産分割したり、第三者などに売買したりするときには、司法書士が作成する本人確認情報をもって登記識別情報の代わりにすることができます。


新たな遺産分割協議で所有者変更は可能

 相続に関連して不動産の代位登記が行われた場合、不動産の所有権移転登記は法定相続割合に従ったものになります。
相続人が複数いるにもかかわらず、債務者である長男が100%の持分を持つような代位登記ができるわけではありません。

 しかし、相続人の間では、対象となる不動産は長男が全て相続する、妻がすべて相続するというように、法定相続割合とは異なる分け方を希望することがあります。
 では、この場合には代位登記された登記を修正することはできるのでしょうか?
結論としては、新たに遺産分割協議をして協議を反映した登記を行うことは可能です。
この場合には、代位登記を修正するのではなく、代位登記でなされた登記を元にして持分を移転する登記を行うことになります。

 たとえば、代位登記で相続人ABがそれぞれ2分の1ずつの持分登記が行われていたものの、遺産分割協議によってAの所有にするとなった場合には、Bが持っていた2分の1の持分をAに移転する登記が必要となるのです。
ただ、こうしたことを行うにも、登記識別情報が必要となります。
登記識別情報がない場合は司法書士による本人確認情報の作成が必要となります。

 相続による所有権移転登記を放置していた場合、相続人のなかに借金を抱えている人がいたら、債権者である第三者の手によって、登記されてしまうことがあります。
最悪の場合、競売にかけられて不動産の所有権を失うことにもなりかねません。
このような事態を防ぐためにも、相続が起きたときは、相続登記は速やかに行い、相続人に借金を抱えている人がいないかどうか、調べておくなどの対処が必要となります。

養子縁組している場合に相続放棄で気をつけることとは?

2021.1.15

 祖父母と孫などが養子縁組をした場合、親族関係は複雑なものになります。
そのため万が一、養子縁組間で相続放棄をする場合、その手続きもまた面倒になってしまいます。
 今回は養子縁組している場合に絞って、相続放棄をする際の注意点を紹介していきます。


相続税対策になる養子縁組は、親族関係も複雑に

 相続税対策も考慮して、祖父母が孫を養子とすることがあります。
相続関係図の例を見ながらご説明しましょう。

 祖父母BCが孫Aを養子にした場合、祖父母BCと孫Aは法律上の親子となります。
それと同時に、祖父母の子である父Xは孫Aと兄弟(父Xが兄で、孫Aが弟)となります。
つまり父Xと孫Aとは、親子であると同時に兄弟でもあるという関係になります。


相続の順位

 民法上、相続人の範囲や順位が定められています。
まず、被相続人に配偶者がいる場合、配偶者は必ず法定相続人となります。
次に、被相続人に直系卑属(子・孫など自分より後の世代で、直系の血族のこと。養子も含まれる)がいる場合には、直系卑属が法定相続人となり、直系卑属がいない場合には、直系尊属(父母・祖父母など自分より前の世代で、直系の血族のこと)が法定相続人となり、直系尊属がいない場合には兄弟姉妹が法定相続人となります。
 これに代襲相続(被相続人より先に法定相続人となるべき者が亡くなっている場合に、被相続人から見て孫・ひ孫や姪・甥が相続人となって相続すること)が組み合わさる形となります。
 一般的な事案の場合には、配偶者の有無及び生死(配偶者は必ず法定相続人となる)、第一順位:子(養子)の有無及び生死、第二順位:両親の生死、第三順位:兄弟姉妹の有無及び生死を確認するということが多いかと思います。


相続放棄で相続人がいなくなると勘違い?

 相続放棄をすると、相続放棄をした人は法的には相続人ではなかったことになります。
 ですので、上位の順位の親族が相続放棄をすると、下位の順位の親族が相続人となるという事態が発生します。
 先述の相続関係図のなかで、父Xが亡くなったとします。
その後、母と孫Aが相続放棄をした場合、祖父母BCが相続人となります。
その次に、祖父母BCが相続放棄をした場合、父の弟Dが相続人になります。
さらに、父の弟Dが相続放棄をした場合、父Xの相続人はいなくなるということになりそうです。


兄弟の立場での相続放棄を忘れずに

 しかしながら、孫Aは、父Xの子であると同時に弟でもあります。
ですので、孫Aは、父Xの弟としての立場でも、相続放棄をしなければならなくなります。
 仮に父Xが多額の負債を抱えており、それを免れるために相続放棄をしたにもかかわらず、養子縁組によって発生した兄弟関係を失念して相続放棄をしなかったということになると、父Xの負債を相続しなければならないといった事態に陥りかねません。
 ただし、過去、二重の相続人の地位を有している者(上記相続関係図における孫Aも子と弟という二重の地位を有している者となる)の相続放棄の効力が争われた事案において、京都地方裁判所昭和34年6月16日判決は、一方の相続人の地位における相続放棄をその他の事情も勘案して、他方の相続人の地位における相続放棄とも評価しました。
 上記の裁判例は、さまざまな事情を考慮したうえで上記の結論を導いています。
 実際に相続放棄をする場合には、ほかの相続人としての地位がないかどうかをよく確認して、確実に相続放棄をすることをおすすめします。

 

再確認しよう! 相続人の範囲と相続の順位、民法上のルール

2021.1.6

 ある人が亡くなった場合、その亡くなった人(被相続人)の遺産は、その人以外の人に相続されます。
 民法は、相続人である『法定相続人』の範囲に含まれている人に相続権を与え、遺産を取得させることを原則としています。
それでも、遺産の相続は金銭的な利害関係も絡むことから、相続人間で対立が生じることが多くあります。
 そこで今回は、相続人の範囲や順位に関し、民法に定められているルールについて確認していきましょう。


財産は誰に分配される? 法定相続人の範囲

 まず、相続人の範囲や順位について解説します。
法定相続人となることができるのは、以下の人たちです。

●被相続人の配偶者
 被相続人の配偶者はどのような場合でも法定相続人となります。
ただし、あくまでも法律上の配偶者が法定相続人になるので、被相続人と法的に婚姻関係がある必要があります。
したがって、婚姻届を提出していない内縁の妻は法定相続人ではありません。

●被相続人の子ども、孫、ひ孫(直系卑属)
 被相続人の子どもには、被相続人の養子や、被相続人と内縁の妻との間の子どもも含まれます。
 なお、孫は被相続人の子どもが亡くなっている場合に相続人になり、ひ孫は被相続人の子どもと孫が両方とも亡くなっている場合に法定相続人になります。
このような相続権を継ぐ相続を、代襲相続といいます。

●被相続人の親(直系尊属)や兄弟
 親が亡くなっている場合は、祖父母が法定相続人となることが可能です。
親も祖父母も亡くなっている場合は、曾祖父母も法定相続人になりえます。

 なお、被相続人は、遺言書を作成することによって法定相続人以外の人に対しても遺産を渡すことが可能です。
 その場合、法定相続人の範囲にほとんど意味はなくなってしまいますが、法定相続人には遺留分という取り分が与えられることになります。

 配偶者以外の法定相続人については、相続人になることができる順番があり、相続順位が高い人が法定相続人になります。
つまり、順位が高い相続人がいる場合、低い順位の人は法定相続人になれません。
相続順位は、子ども(孫、ひ孫等も含む)、親、兄弟姉妹の順です。
たとえば、配偶者と子どもと親がいる場合、配偶者と子どもが法定相続人となり、親は相続人にはならないのです。


法定相続人の順位と相続における取り分

 次に、相続における取り分のルールについて解説します。
法定相続人が被相続人の遺産をどのくらい相続するのかについては、民法で定められています。この遺産取得分のことを、『法定相続分』といいます。

 法定相続分は配偶者の法定相続分が一番多く、つねに2分の1以上は取得できるようになっています。
法定相続人が配偶者のみの場合、配偶者の法定相続分は遺産の全てです。
子ども・孫などの直系卑属がいる場合は配偶者と直系卑属が法定相続人になり、配偶者の法定相続分は遺産の2分の1となります。
そして、子どもが複数いる場合の子どもらの取り分は、子どもが3人いるなら1人につき残りの遺産の3分の1といったように、人数で均等に分割されます。

 また、法定相続人が配偶者と親・祖父母などの直系尊属の場合は、配偶者の法定相続分は遺産の3分の2となります。
法定相続人が配偶者と兄弟姉妹の場合は、配偶者の法定相続分は遺産の4分の3です。
 いずれの場合も、この残りが親や兄弟姉妹の取り分となり、親や兄弟姉妹が複数いる場合は、人数で均等に分割されるというわけです。

 法定相続人の相続分については、民法においてさまざまなことが定められています。
 実際には、被相続人が特定の法定相続人に相続開始前に財産の一部を与えていたような場合(特別受益)や、法定相続人の一部の人が、被相続人のお世話をしていたような場合(寄与分)も多くあります。
そういった際には、法定相続分の割合が修正されることが民法で定められているため、それを発端として争いが生じることがよくあります。

 いざ相続が発生してから慌てないためにも、法定相続人の範囲や順位、法定相続分などを確認し、相続財産がどのように分けられるのかを理解しておきましょう。


※本記事の記載内容は、2021年1月現在の法令・情報等に基づいています。

株式を相続する前に知っておきたい手続の流れと注意点

2020.12.11

 亡くなった方が、生前に株式投資を行っていたり株式会社の経営者だったりした場合、相続財産に株式が存在するケースが多く見られます。
しかし、株の相続は、ほかの財産の相続に比べて注意すべき事柄がいくつかあります。
 そこで今回は、株の相続が完了するまでの手順とチェックポイントについて説明します。


相続人が複数の場合、株は『準共有』になる

 たとえば、相続財産として1,000株が存在するケースで、4人の相続人がいたとします。
これらの株式を相続するとき、4人に平等に分けるのであれば、「1人250株ずつでは?」と思われる方も多いでしょう。

 しかし、民法に従って相続した場合は、4人で1,000株を『準共有』(所有権以外の財産権を複数の人が有すること)している状態になります。
そのため、誰に何株を相続させるかを決めるまでは、4人全員の同意がなければ株主としての権利を行使できない、という事態も起こります。
相続財産に株式が存在する場合には、遺言書がない限り、相続人の間で遺産分割協議を行い、誰にどの株を何株相続させるかを決める必要があるのです。

 身内が亡くなって株の相続が発生したら、まず、被相続人が取引していた証券会社の取引支店に連絡をしましょう。
証券会社の担当者に、相続税の申告期限や、とらなければいけない手続などについて確認します。
 手続の基本的な流れとしては、証券会社から相続手続きに必要な書類が送られてきますので、指示された書類を全て揃えて提出します。
その提出物に不備がなければ、株の引き継ぎが完了となります。

 なお、株の相続については、上場株式と非上場株式では異なる部分が多くあります。

 次に、その二つを相続する際の違いと注意点についてお話します。


問題点も手続も異なる上場株式と非上場株式

 株式は、上場株式と非上場株式に大きく分けることができます。
相続する際はそれぞれに問題点も手続も異なりますので、注意が必要です。

【上場株式の場合】
上場株式は、証券取引所で公表される価格を基準にしていますが、その価格は日々変動するため、遺産分割の際には『いつの時点の価格で評価するか』が問題となります。
一般的には、遺産分割時の価格を基準にすることが多いでしょう。
また、上場株式を相続する場合、窓口となっている証券会社で名義変更を行います。
その際、保有している株式は証券口座で電子的に管理されているため、株式を相続するためには証券口座が必要になります。
したがって、株式を相続する人が証券口座を持っていない場合には、証券口座を開設することになります。

【非上場株式の場合】
非上場株式は、そもそも「どのように評価するか」が問題となります。
相続税申告の際には、株式を取得する人が同族株主等の場合には原則的評価方式(類似業種比準方式、純資産価額方式、または併用方式)で、それ以外の株主の場合には特例的評価方式(配当還元方式)で、それぞれ評価することとされています。
しかし、遺産分割の際にもこれと同じ方法を採用するのか、あるいはどのような評価方法を採用するのかは、相続人間で協議して合意する必要があります。
また、非上場株式を相続する場合、株式を発行している会社に直接問い合わせをして名義変更の方法を確認する必要があります。
相続人ら親族が経営する会社の場合、この手続すらスムーズにいかないという問題も起こり得ます。

 上場株式・非上場株式にかかわらず、株式を分ける際には、売却して現金化したうえで、その代金を相続人間で分ける『換価分割』という方法が用いられることも多くあります。
 ただし、亡くなった人の名義のままでは株式を売却できないため、相続人の代表者の名義に変更したうえで売却し、遺産分割協議に従って売却代金を分けることになるため、さらに手間がかかるといえるでしょう。
また、株式は売却の時期や方法によって価値が大きく変動するため、そのような細部にわたるまで遺産分割協議で決めておく必要があるのです。

 このように、株式は、価格の変動が激しく分割手続も煩雑なため、遺産分割の際にはトラブルの種になりがちです。
上場株式と非上場株式で、その評価方法も手続も大きく異なります。
市場のタイミングによっては評価額が一気に跳ね上がる可能性もあり、相続税額にも大きく影響してきます。

 顧客の相続財産に株式があるときは、速やかに専門家に相談するなどして、一つずつ対処してくことが大切です。


※本記事の記載内容は、2020年12月現在の法令・情報等に基づいています。

 

相続手続の前に、遺言の有無を明らかにしておこう

2020.11.19

 もしも家族の誰かが亡くなったら、残された相続人たちで相続手続を進めていかなくてはなりません。
その際、亡くなった方が遺言を残していた場合は、原則として遺言の内容に従って相続手続などを行います。
 遺言により、法定相続分とは違う割合で相続をさせたり、相続人以外の者に財産を残したりすることができるため、遺言の有無は手続をどのように進めるかを決めるうえで重要なものです。
 そこで、今回は遺言があるかどうかの探し方とともに、見つかった場合にどのような対応が必要となるかについて、解説します。

遺言をどのように探せばよいか

 被相続人が遺言を残してはいるものの、遺言を作成したことや、その保管場所などについて、事前に誰も聞いていないケースがあります。

 遺言があるかどうか知らされていない場合でも、“遺言が残されている”ということは考えられますので、そのような場合は、まず、被相続人が大切なものを保管していそうな場所を探してみましょう。
被相続人が貸金庫の契約をしていた場合は、貸金庫内に遺言が保管されているといった場合もあります。

また、公正証書遺言の形式で遺言が残されている場合は、作成をした公証役場に原本が保管されています。
相続人であれば、最寄りの公証役場で遺言の有無を検索することができますので、念のため調査しておきましょう。
遺言検索を行う場合には、遺言を残した人が亡くなったことを確認できる除籍謄本と、検索をする人が相続人であることを確認できる戸籍謄本などが必要になります。

 なお、2020年7月から新しく『法務局における自筆証書遺言の保管制度』が始まりました。
現状では、まだ、この制度を利用して自筆証書遺言を法務局に預けているという人は多くないと思われますが、相続人は、公正証書の場合とほぼ同様の添付書類(除籍謄本や戸籍謄本など)とともに法務局に請求をすれば、自筆証書遺言が預けられているかどうかを確認することができます。


遺言が見つかったらまずどうする?

 調査等の結果、遺言書が見つかった場合、その後はどうすればよいでしょうか?
これは、遺言の種類等によって対応が変わってきます。

 まず、公正証書遺言以外の形式の遺言(自筆証書遺言など)は、その遺言を保管していた人や発見した相続人が、家庭裁判所に遺言書を提出し、『検認の手続』をしなければなりません。
 検認とは、相続人に対し遺言の存在・内容を知らせるとともに、検認の時点における遺言書の形状・状態、記載内容を確認・記録するための手続です。
検認手続が終了すると検認済みの証明書が出され、その遺言に基づく相続の手続を行うことができるようになります。

 一方、公正証書遺言の場合は、この検認の手続が不要です。
なお、前述の法務局における自筆証書遺言の保管制度を利用した場合は、自筆証書遺言であっても検認が不要になりました。
また、この場合、相続手続を行うための証明書は法務局が発行してくれます。


遺言の効力を否定されることもある

 注意したいのは、検認手続を経たことや遺言の保管制度を利用したことは、遺言の具体的な内容や形式の有効性を保証するものではないということです。
そのため、遺言の文言に問題がある場合などには、遺言の効力自体が否定され、その遺言に従って、相続登記などの実際の相続手続を実行することができないという可能性もあります。

 また、公正証書遺言が残されており、相続手続自体は実行できたとしても、遺言者が認知症などによって遺言能力がなかった場合などは、遺言の有効性が争われ、事後的に遺言の効力が否定されることもありえます。

 これではせっかく遺言を作成しても、遺言者の希望どおりにならなくなってしまいますし、不完全な遺言の存在が相続人同士の争いを助長してしまう結果にもなりかねないので、作成した意味がなくなってしまいます。

 そのような事態を避けるために、遺言を作成する際には、「法律上要求される形式的要件を満たしているか」「その遺言の文言で、紛争を回避できるか」「思ったとおりの相続を実現できる内容となっているか」などの観点から、専門家のチェックを受けておく必要があるでしょう。
 自分が残した遺言によって家族が困らないよう、確実な手続をすることが大切です。

※本記事の記載内容は、2020年11月現在の法令・情報等に基づいています。

遺贈登記の手間を大きく左右する? 『遺言執行者』の役割とは

2020.11.12

 配偶者に先立たれ、広い自宅で一人暮らしをしている人の場合、自分の死後に自宅をどうするかは一つの悩みどころです。
子どもや孫たちが遠方にいる場合、相続しても自宅に住んでくれる可能性は低いでしょう。
さらに自宅の評価額がそこまで高くないといったケースでは、自宅を相続人に相続させるのではなく、お世話になった人や友人などの第三者に遺贈するという選択肢もあります。
遺贈するときには、遺言執行者を立てておくとその後の登記手続きの手間が軽くなります。
 今回は、遺贈と遺言執行者について解説します。

①遺言執行者は何をする人?

 『遺言執行者』とは、その名のとおり遺言の内容を執行する人のことで、『遺言執行人』と呼ばれることもあります。
たとえば、『Aを遺言執行者に指定する』と遺言に書かれていた場合などは、指定されたAさんが、遺言に書かれた内容を実現させるために手続きを行っていきます。
具体的には、財産目録の作成や、相続財産となっている預貯金の請求や解約手続き、不動産の登記手続きなどを行います。

 遺言執行者がいることで、相続手続がスムーズに進む場合は多くあります。
たとえば、遺言の内容が気に入らない相続人がいた場合、その人が勝手に財産を処分してしまう事態が起きるかもしれません。
しかし、遺言執行者がいればその行為を無効にすることができ、遺言どおりの相続を推し進めることができるのです。

 遺言執行者について、民法では『遺言執行者は、遺言の内容を実現するため、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する』と定められており、その権限は非常に大きいものとなっています。

 特に、不動産が第三者に遺贈されているときは、遺言執行者の有無が相続手続を難航させなたいために重要な役割を果たすことが多く、登記手続きの手間も大きく変わります。

 民法では『遺言執行者がある場合には、遺贈の履行は、遺言執行者のみが行うことができる』と定められており、遺贈に関しても遺言執行者は大きな権限を持ちます。

 通常、贈与に基づく所有権移転登記は、原則として『登記権利者』(贈与を受けた人)と『登記義務者』(贈与をした人)による共同申請で行います。
しかし、遺贈の場合は、登記義務者(贈与をした人)はすでに亡くなっているため、代わりに遺言執行者が登記義務者となります。
遺言執行者がいない場合は、相続人全員が登記義務者となります。

遺言執行者がいる場合、登記手続きに必要な書類は以下のとおりです。

●遺言書(自筆証書遺言は家庭裁判所で検認済のもの)
●登記済権利証または登記識別情報通知書
●遺言執行者選任の審判書(家庭裁判所が遺言執行者を選任した場合)
●遺言執行者の印鑑証明書
●受遺者の住民票または戸籍の附票
●固定資産評価証明書または納税通知書
●遺言者の戸籍謄本または除籍謄本
●遺言者の住民票除票または戸籍の附票


②遺言執行者がいないと、登記手続きは煩雑に

 同様のケースで遺言執行者が定められていない場合、相続人全員が登記義務者となり、登記権利者と共同申請をすることになります。
このケースでの登記手続きでは、先ほどあげた書類に加えて、以下の書類が必要となります。

●相続人全員の戸籍謄本
●相続人全員の印鑑証明書

 このように、遺言執行者がいない場合は、相続人全員の戸籍謄本と印鑑証明書を揃えなければならず、相続人の数によっては、手続きは非常に煩雑になります。
また、すべての相続人が遺贈について肯定的であればよいのですが、遺贈に難色を示す相続人がいる場合、印鑑証明書を出してくれないなどの妨害に遭うおそれもあります。

 一方、遺言執行者がいれば、遺贈に難色を示す相続人がいたとしても、遺言書のとおりに登記手続きを進めることができます。
また、相続人全員の戸籍謄本や相続人全員の印鑑証明書も必要ありません。

遺言執行者の有無は、このように登記手続きの手間を大きく左右するわけです。


③遺言執行者はどのように選任する?

 遺言執行者は、遺言書に「この人を遺言執行者として指名します」と書くことによって指定することができます。
このほか、遺言書では『遺言執行者を選任する人』だけを決めておき、遺言者が亡くなった後に指定された人が遺言執行者を選任するという方法がとられることもあります。
遺言書を早くに作っておきたいときなどには、この方法がよいでしょう。
 さらに、家庭裁判所が選任するという方法もあります。
遺言執行者を指定せずに遺言者が亡くなったときや、遺言執行者として指定されている人が先に亡くなってしまっているときは、申し立てにより、家庭裁判所は遺言執行者を選任することができます。
申し立てができるのは、相続人、受贈者などの利害関係人です。

 遺言執行者をあらかじめ選任しておけば、自分に何かあってもスムーズに相続手続きや遺贈手続きをしてくれるため、安心です。
ただし、遺言執行者として指定された人は、これを拒否することもできますので、遺言執行者を選任するときは、あらかじめ承諾を得ておくようにしましょう。

 遺言執行者が遺贈の履行ができるといっても、円満に相続や遺贈の手続きを進められないと、相続人や受遺者の負担は大きくなってしまいます。
禍根が残らないよう、遺贈の意思を相続人に伝え、できる限り事前の承諾を得ておけるとベストです。
遺贈を検討する際は、遺言執行者を立てるとともに、相続人への配慮も忘れないようにしましょう。


※本記事の記載内容は、2020年11月現在の法令・情報等に基づいています。

4月から運用が始まった『配偶者居住権』。登記は必要?

2020.10.30

120年ぶりに大幅な改正があった民法。
改正民法で新たに成立したのが『配偶者居住権』です(『配偶者居住権』の新設等に係る改正法の施行日は、2020年4月1日とされています)。
これは夫婦の一方が死亡した時に、配偶者が安心して自宅に住み続けられるように作られた制度です。
この配偶者居住権は、所有権や抵当権などと同じく、登記が必要なのでしょうか。
今回は、配偶者居住権と登記について紹介します。


なぜ配偶者居住権が創設されたのか

まずは、簡単に配偶者居住権について確認しておきましょう。
配偶者居住権とは、相続が始まる前から被相続人の配偶者が住んでいた自宅に、一生涯、または一定期間住み続けられる権利です。
これまでの法制度では、配偶者が自宅の所有権を相続するときには、預貯金などの他の財産を受け取れない可能性がありました。
たとえば、相続人が配偶者と子どもの2人で、相続財産が3,000万円の自宅と3,000万円の預貯金だった場合、法定相続割合で相続した場合には、配偶者が自宅を相続したら、預貯金は子どもが相続することになるのです。
しかし配偶者も高齢になっていることが多く、預貯金を相続できないとなると今後の生活に不安が残ります。
こうした問題を解決するために設けられたのが、配偶者居住権という制度なのです。
配偶者居住権を活用すれば、不動産を負担付き所有権(2,000万円と仮定します)と配偶者居住権(1,000万円だと仮定します)に分け、子どもが負担付き所有権を、配偶者が配偶者居住権を相続することも可能で、さらに配偶者が2,000万円の預貯金を相続することができ、老後の生活費が確保できるというわけです。


配偶者居住権とはどのような内容か

配偶者居住権は、所有権とは別に設定されます。
これにより、自宅に住み続けることはできますが、以下のような制限を受けることになります。

●所有者の許可なく増改築ができない
●これまでと異なる用法で自宅を利用することはできない
●配偶者居住権を第三者に譲り渡すことはできない
●所有者の許可なく第三者と賃貸借契約を結ぶことはできない
●修繕費用は配偶者が負担する


配偶者居住権を主張する場合、登記は必要か

万一のことですが、ある不動産をめぐってトラブルがあった場合、不動産の所有者は、登記をしておかなければ第三者に対抗できません。
これは、もし所有する不動産を他の人に登記され、売却されたなどという事件が起きたとき、「この家は私のものです」と主張できないという意味です。

実は、配偶者居住権もこれと同じで、登記をしておかなければ第三者に対抗できません。
その結果、「出て行ってください」といって立ち退きを迫られてしまう可能性もあります。
逆に、登記をしておけば、仮に所有権を相続した子どもが第三者にこの家を売却したとしても、「私はこの家に住み続ける権利があります」と主張し住み続けることができます。
配偶者居住権を活用する際には、忘れずに登記をしておくことが大切です。

なお、配偶者居住権と同様に、被相続人の配偶者が相続開始時に居住していた被相続人の建物に相続開始後も無償で居住できる制度として『配偶者短期居住権』がありますが、『配偶者短期居住権』については登記そのものがありません。
長期的に自宅に住む場合に限り登記が必要だと覚えておきましょう。

また、配偶者居住権を登記する際には、原則として、本人の単独ではなく、建物の所有者と配偶者との共同申請が必要です。

共同申請に必要な書類は以下の通りです。
●登記申請の際に必要な書類
●遺産分割協議書、または遺言書(2020年4月以降に作成されたもの)
●登記識別情報
●固定資産評価証明書
●実印と印鑑証明書

所有者との関係性が良好であれば共同申請も問題はありませんが、何らかのトラブルが起きている場合は、共同申請者の協力を得るのに苦労する可能性があります。
ただ、遺産分割の審判によって、配偶者が配偶者居住権を取得すると定められ、かつ、居住建物の所有者に配偶者居住権の設定の登記手続をすべきことが命じられている場合であれば、共同申請ではなく配偶者が単独で登記申請ができます。

また、配偶者居住権の登録には『登録免許税』がかかります。
配偶者居住権の設定の登記に関する登録免許税は、不動産の価格の1,000分の2とされています。
仮に不動産の価格が3,000万円の場合は、登録免許税として6万円を納めることになります。

配偶者居住権は、配偶者が経済的に不安を感じることなく、生涯自宅で暮らすことができるようにという観点で創設されました。
しっかり活用するためには、登記をしておくことが大切です。

『成年後見制度』で必要となる登記手続きとは

2020.10.21

もしも認知症になるなどして意思判断能力が衰えてしまったら、不動産の売却や定期預金の解約といった財産の処分や管理を自分一人でできなくなります。
また、相続人のなかに認知症の方がいると、遺産分割協議を進めることもできません。
こうした場合、認知症の方の代理人として成年後見人を立てることになります。
成年後見制度は被後見人の判断能力によって、法定後見・任意後見に分かれ、法定後見の中でも補助・保佐・後見の3つがあります。
今回は、法定後見制度のうちの成年後見制度において、必要となる登記の手続きについて解説していきます。

成年後見制度とは

成年後見制度は、認知症や寝たきり、知的障害、精神障害などによって十分な判断能力がなく、自分一人では法律行為ができない人の権利や財産を守るための制度で、家庭裁判所に選任された成年後見人が、本人の身のまわりに配慮しながら保護・支援します。
成年後見人は本人の財布から日常的な買い物の支払いをしたり、医療費を支払ったりすることができます。
また、本人のためであれば不動産の売却や賃貸契約などの大きな契約も行えます。
こうした際に、契約の相手方や役所や金融機関等に『本人は成年被後見人で、自分が成年後見人として代理で手続きを行っている』ということを証明するための制度が、成年後見の登記制度です。


登記手続きが必要となるケース

成年後見の登記申請は、自分で行う必要はありません。
家庭裁判所で成年後見制度の申立を行い、審判が確定すれば、家庭裁判所から法務局に情報が送られ、自動的に登記されるためです。
しかし、以下のようなときには登記手続きをしなければなりません。

(1)『変更の登記』が必要となるケース
●成年被後見人の住所や氏名、本籍に変更があったとき
●成年後見人、成年後見監督人(成年後見人を監督する立場の人。必要に応じて選ばれることがある)の住所や氏名に変更があったとき
●成年後見人、成年後見監督人が死亡したとき
●成年後見人、成年後見監督人が破産したとき

(2)『終了の登記』が必要となるケース
●成年被後見人が死亡したとき


成年後見の登記申請の手続き

変更の登記、終了の登記のいずれも、手続き先は東京法務局後見登録課の窓口です。
最寄りの法務局では手続きができないので注意しましょう。
遠方で東京法務局に行くことができない場合などは、郵送やインターネットでのオンライン申請で手続きをすることができます。
登記手数料は無料で、必要書類は以下のとおりです。

【変更の登記に必要となる書類】
●登記申請書
●住所変更があった場合は、登記上の住所から現在の住所に移転した経緯が記録されている住民票の写しまたは戸籍の附票
●氏名・本籍(本籍は成年被後見人等の本人のみが対象)に変更があった場合は、登記上の氏名または本籍から変更があったことを証明できる戸籍謄本等の原本
●成年後見人の死亡による変更登記では、死亡の事実が記載されている戸籍(除籍)の謄抄本または死亡診断書
●成年後見人の破産による変更登記では、破産決定正本
●申請者または代理人が法人の場合は、法人の代表者の資格を証する書面

【終了の登記に必要となる書類】
●登記申請書
●成年被後見人の死亡の事実が記載されている戸籍(除籍)の謄抄本または死亡診断書


証明書が必要な場合の手続き

成年後見登記に関する証明書には以下の2種類があります。

(1)登記事項証明書
『登記事項証明書』は、成年後見人または成年被後見人として登記されている内容を証明するためのものです。
不動産の売買契約をするときなどに添付書類として求められることがあります。

(2)登記されていないことの証明書
『登記されていないことの証明書』は、登記事項証明書とは逆に、成年後見人または成年被後見人として登記されていないことを証明する書類です。
たとえば、成年被後見人でないことを条件とする資格・営業許可等を受けるために必要となるほか、就職先の会社から求められる場合もあります。

【申請窓口】
窓口での証明書の交付は、東京法務局の後見登録課および東京法務局以外の各法務局・地方法務局の戸籍課で行っています(支局・出張所では行っていません)。
また、郵送申請の場合は、東京法務局の後見登録課に請求します。

【手数料】
登記事項証明書は1通につき550円、登記されていないことの証明書は1通につき300円の証明書発行手数料がかかります。
手数料は、申請用紙の所定の場所に収入印紙を貼り付けて納めます。

【必要書類】
●申請用紙
●申請する人(代理請求の場合は代理人)の本人確認書類
●四親等内の親族が申請する場合は、戸籍謄抄本等親族関係を証する書面
●代理人が申請する場合は、委任状
●申請する人または代理人が法人の場合は、法人の代表者の資格を証する書面(有効期限3カ月)

成年後見制度を利用する際は、登記制度についても以上の知識を押さえておくことが大切です。
成年被後見人や成年後見人の住所・名前などの変更があった場合は、すみやかに登記手続きを行いましょう。

 

 

相続人の間でのトラブル回避! 『分筆』のメリットとその手順とは

2020.10.13

土地所有者が亡くなって相続が発生したとき、配偶者と子どもなど、相続人は複数存在することが多くあります。
この場合、遺産分割協議をしなければ、相続人全員の共有で土地を相続することになります。
しかし、共有となると、土地を売却するときや、土地の上の建物を建て替えるときなどにお互いの合意が必要となります。
そこで、おすすめしたいのが『分筆』です。
分筆とは、登記上1個の土地を数個の土地に分ける(地番を分ける)手続きのことをいいます。
今回は、分筆を行うメリットとその手順などについて解説します。

土地所有者の生前に分筆を行うメリットとは?

土地所有者が亡くなって相続が発生したときに、その土地を巡って相続人の間でトラブルになることがあります。
このトラブルを避ける方法の一つとして『分筆』がありますが、タイミングが重要です。
一般的に分筆のタイミングとしてベストなのは、土地所有者が生きているときです。
なぜなら、土地所有者が将来の相続人と話し合いながら進めていくことができますし、将来の相続人の間でどのように分けるか、じっくりと検討する時間がとれるからです。

また、分筆によって1個の土地が数個の土地に分かれるので、分筆した土地を生前に贈与するという選択も可能になります。
この場合、贈与を受けた者は、その土地を所有権の範囲で自由に利用することができます。
たとえば、住宅ローンを組む際は、建物だけでなくその敷地にも、債務不履行の場合に土地や家を担保とする『抵当権』が設定されますが、1個の土地の一部に抵当権を設定することはできません。
住宅ローンを組む前に分筆しないと、分筆前の土地の全部に抵当権の効力が及びます。
将来の相続人の1人が抵当権を設定した土地に、他の将来の相続人が更に抵当権を設定しようとしても、二重ローンと判断されて、ローン審査が通らない可能性があります。
しかし、分筆をすれば、このような問題とは無縁です。
分筆は、融資を受けるときにも有利に働くのです。
このほか、生前贈与によって相続財産が減るため、相続税の節税につながることもあります。


分筆登記の手順と必要書類

では、実際に分筆を行うためには、どのような手順を踏み、どのような書類が必要となるのでしょうか。

まず、分筆には登記申請が必要となり、手順は次のようになります。
(1)法務局・役所で調査(公図、地積測量図、登記事項証明書、確定測量図)
(2)現地予備調査
(3)現地立会い(役所、隣地土地所有者)、境界(筆界)確認成立
(4)境界確定測量
(5)分筆案の作成
(6)境界標の設置
(7)登記書類の作成
(8)登記申請

必要書類は以下の通りです。
・申請書
・境界確認書または筆界確認書
・測量図
・現地案内図

また、土地所有者が亡くなった後に分筆を行う場合は、分筆登記を行うために相続人全員の申請が必要です。
ただし、相続について遺産分割協議が整っている場合は、不動産を取得する相続人から申請することが可能です。
不動産を取得する相続人のみが登記申請をする場合は『遺産分割協議書』が必要になりますが、相続人全員が登記申請する場合は不要です。

ちなみに、分筆は現物を見て、どのように分ければよいかを判断するようにしましょう。
図面だけを見て土地を等分すると、土地の価値がなくなるような分筆になり、売却する場合、損をする可能性があります。
また、分筆の仕方によっては、固定資産税が節税できたり、相続税評価が安くなったりといったことも可能となるため、実際に行う際は専門家に相談するなどしてよく検討する必要があるでしょう。

分筆する場合、生前に行っておくことが可能であれば、そのほうがスムーズですから、今後そういった事態が想定される方は、早めに検討してみてはいかがでしょうか。

 

相続発生を知ったとき、最初にすべきことはこれ!

2020.10.8

もしも親や配偶者、兄弟など、自分が相続人の立場となる誰かが突然亡くなったら、ショックを受けたり、現実を受け入れられなかったりするでしょう。
そのようななか、葬儀などをなんとか終えて、次に頭に浮かぶのは相続のことです。
気持ちを切り替えるのはむずかしいかもしれませんが、時間は限られていますので、手続きを進めていかなければなりません。
今回は、相続発生を知ったとき、まず何をすべきなのかをお伝えします。


『相続人は誰か?』を確認する

相続が発生したら、まず、誰が相続人となるのかを確認する必要があります。
この手順をとばしてしまうと、後々、実はほかにも相続人がいたことが判明した場合、相続の話し合いがすべてやり直しになってしまう恐れもあるため、重要なステップです。

相続人となりうるのは、以下のAおよびBです。

A. 被相続人の配偶者
B. 被相続人と法律上、血のつながりがある者(血族)

Bでは、(1)子、(2)直系尊属、(3)兄弟姉妹という順序が決まっており、これらが同時に存在する場合、(1)(2)(3)のうち最も順位の早いグループの者だけが相続人となります。
つまり、被相続人に、配偶者と子がおり、被相続人の両親も存命中という場合は、相続人は配偶者と子のみとなるということです。

ほかにも、法律上相続人を確定させるために検討すべき事項はありますが、まずは上記の基本ルールに従って、相続人を確認していく作業を進めましょう。

確認するにあたっては、被相続人の生まれてから死ぬまでの戸籍謄本を取得します。
戸籍謄本を取得するには、その人の本籍地の役所に申請しますが、被相続人の本籍地がわからない場合には、被相続人の住民票を取得し、住民票に記載されている本籍地を確認しましょう。
これらの作業を面倒に感じる方も多くいますが、遺産分割調停を申し立てるときには提出を求められるため、必要な作業です。
これらをすべて確認し、いわゆる隠し子などがいないかをチェックしたら、簡単な相続人関係図を作成しておくと、後々便利です。
このようにして、相続人の範囲を確定します。


『遺言はあるか?』を確認する

被相続人が、生前に遺言を作成しているケースもあります。
そこで、遺言がありそうな場所については、ひととおり探します。
また、公証役場で遺言公正証書を作成している可能性もあるので、近くの公証役場に行き、『遺言検索システム』を利用して遺言の有無を確認することをおすすめします。

何らかの方法で遺言が見つかれば、それを前提に遺産分割の検討をすることとなりますし、見つからなければ遺産となる財産を調査し、その分け方を検討することになります。


『相続財産は何か?』を調査する

被相続人本人から、自身の財産状況について情報共有を受けていれば、その情報を前提に遺産となる財産を確認していくこととなります。
また、自宅から預金通帳が見つかれば、取引のある銀行やお金の流れがわかりますし、登記識別情報通知や固定資産税の課税通知書があれば、所有している不動産を把握できます。
このほか、郵便物などを手がかりに、取引のある銀行や信託会社、所有している不動産などを突き止められることもあるでしょう。
ただ、被相続人が、どこに、どんな財産を、どのくらい持っていたか全くわからないケースも多いので、そのような場合には、次の方法で地道に財産調査を行います。

(1)不動産
被相続人が不動産を持っていそうな地域の役所に行き、被相続人の『名寄帳(なよせちょう)』を取得します。
当該地域内に不動産を所有していれば、名寄帳に不動産情報が記載されているので、当該不動産の登記情報を取得し、権利関係を確認しましょう。

(2)預貯金
被相続人の最後の住所地周辺(ほかにも勤務先周辺など)にある銀行の支店やATMを調べ、どの銀行に口座を持っていそうか、アタリをつけます。
アタリをつけた銀行に電話をかけるか、近くの支店に足を運んで、被相続人が口座を開設していたかどうかを確認しましょう。
口座を開設していることが判明したら、死亡日の残高証明書や、死亡前一定期間の取引履歴を取得します。
このとき、同時に貸金庫の有無も確認しておくようにします。

(3)株式
証券保管振替機構に問い合わせます。
取引のある証券会社や信託銀行がわかれば、そこに問い合わせ、株式残高証明書を取得しましょう。

これらの作業は手間も時間もかかりますが、誰がどの相続財産を引き継ぐのかを決めるうえで大前提となるものです。
焦らずコツコツ進めていきましょう。


※本記事の記載内容は、2020年10月現在の法令・情報等に基づいています。

 

知らないと損をする!? 相続でありがちな疑問4選と対処法

2020.09.24

いざ相続することになったものの、どのように遺産を分割すればよいのか、迷う人は多いのではないでしょうか。
また、被相続人の遺言によって、自分自身の取り分が少ない場合もあるかもしれません。
さらに、相続したら、負債のほうが多かったという可能性もあります。
そこで、相続でありがちな疑問と、その対処法について紹介します。
遺産はどのように分割すればよいか?

被相続人の財産について、具体的に誰が何を取得するのかを決めるのが遺産分割です。
相続人が全員参加して行い、相続人全員の同意が必要ですが、いつまでに行うべきだという期限はありません。
また、相続人全員の合意があれば、法定相続分に関わらず、どのように分割しても自由です。
分割の実行は、まず相続人の協議によってなされ、協議が調わないときは、家庭裁判所に分割の請求をすることができます。
家庭裁判所では、まず、調停が行われ、調停が成立しない場合は遺産分割審判が行われます。

分割手法としては、
(1)現物分割(相続財産をそのままの形で相続人に分配する)
(2)換価分割(不動産の全部又は一部を売却し、その代金を相続分に応じて分配する)
(3)代償分割(不動産の全部又は一部を一人の相続人が受け継ぎ、その相続分を超えた分について他の相続人に金銭を支払う)
(4)共有(不動産の全部又は一部を相続人全員の共有とする)
があります。


相続すると不利益になる場合は?

相続の対象となる財産には、不動産や預貯金等の積極財産(経済的に価値のある財産)だけでなく、借入金などの消極財産(債務)も含まれるので、相続人にとって不利益になる場合もあります。
そこで、相続が開始したときに、相続の効果を受け入れるかどうか相続人が選択できるようにしたのが、相続の承認、放棄です。
承認には、単純承認と限定承認があり、限定承認や放棄をしないときは、単純承認をしたものとみなされます。
限定承認とは、相続財産の範囲内で債務を支払い、それ以上は支払わないというものです。
債務が膨大だが積極財産も多く、遺産を総計してプラスになるかマイナスになるか、わからないという場合に選択されます。
自己に相続があったことを知った時から3カ月以内に被相続人の住所地にある家庭裁判所に申述することになります。
ただ、相続人が複数いる場合は、全員の合意が必要です(相続放棄した者の合意は不要)。
相続の効果を受け入れないならば、自己に相続があったことを知った時から3カ月以内に被相続人の住所地にある家庭裁判所に申述して相続放棄をすることができます。
これにより、被相続人の一切の財産を承継しないことになりますが、相続放棄をした相続人の子は代襲相続もできなくなります。
相続放棄は、他に相続人がいても一人でできます。


遺言書は本人でなく代筆でも可能?

被相続人が、生前に、その財産について誰に何を与えるか意思表示しておくのが遺言で、遺言は法定相続分より優先されます。
被相続人が自分で作成する自筆証書遺言について、従前は、財産目録を含めて全て本人が自筆する必要がありました。
今般の相続法改正により、相続財産の目録については、遺言者本人が自筆しなくても、他人が代筆したり、不動産登記事項証明書や預金通帳の写しを添付したりすることもできるようになり、方式が緩和されました。
これにより、高齢者でも自筆証書遺言を作成しやすくなり、遺言の利用促進に資することとなります。
また、新たに、自筆証書遺言を公的機関(法務局)において保管する制度が立法化されました(2020年7月10日施行)。
これにより、遺言書の紛失、改ざんのおそれがなくなり、また、家庭裁判所で遺言書の『検認手続』をする必要がなくなりました。


遺言により、取り分が少ない場合は?

遺言は、遺言者の意思を尊重するものです。
しかし、その内容によっては、相続人のなかには、その遺言に不満を抱き、被相続人の財産を生活の基盤としていた相続人は生活に困窮することになり、不都合が生じます。
このような不都合を緩和し、調整するのが遺留分制度で、遺留分とは、相続人に最低限保障される取り分ということになります。
遺留分の割合は、直系尊属(被相続人の父母、祖父母)のみが相続人である場合は相続財産の3分の1で、それ以外の場合は2分の1です(被相続人の兄弟姉妹には遺留分は認められません)。
各相続人の遺留分割合は、そのうちの法定相続分割合となります。

ところで、遺言ないし生前贈与により遺留分の侵害があった場合、従来は、侵害された相続人が、遺留分減殺請求権を行使することにより遺留分相当分が遺留分権利者に移転し、当然に物権状態(共有)が生ずるとされました。
2019年の相続法改正により、遺留分侵害額請求権を行使することにより遺留分権利者に遺留分侵害額に相当する金銭の支払を請求する権利(債権)が発生することとなりました。
そして、金銭請求を受けた受贈者ないし受遺者は、裁判所に請求して、金銭債務の全部又は一部の支払について期限を許与してもらうことができるようになりました。

相続法改正も踏まえ、損をすることがないように相続を行いましょう。

 

遺言は『争族』の始まり!? トラブルを生みにくい遺言状の残しかた

2020.09.10

  相続に関する問題として、遺言書が残されているにもかかわらず相続人の間で揉めてしまい、『争族』に発展してしまったという話をよく聞きます。
被相続人としては、自分の死後、家族が揉めることのないようにと、遺言書を作成したつもりだったのかもしれません。
  しかし、その内容によっては、遺言書があるばかりに相続人同士の感情的対立が高まり、トラブルに発展することもあるのです。
今回は、『争族』に発展しにくい遺言書の書き方について考えていきましょう。

①なぜ遺言書がトラブルの種になってしまうのか

  自分の生活の面倒を看てくれたり、入所先の施設に定期的に通ってくれたりした家族には、その労をねぎらうためにも、ほかの相続人よりも多めに財産を遺したいと思うのは自然なことのように思えます。
しかし、そういった私情で遺す財産に差をつけてしまっては、ほかの相続人の立場からすると、「自分もできる範囲で手伝っていたのに、なんであいつだけが優遇されるんだ!」「もしかして、父が弱っているのに便乗して、無理やり遺言書を書かせたんじゃないのか?」などの邪推をするのに十分な材料を与えることになります。

  そうならないようにと、遺言書の付言事項に「〇〇さんの労をねぎらって」と記載したり、遺言書の別紙として、ほかの相続人には財産を遺さない理由や気持ちを書いた手紙を添付するなど、工夫を凝らした遺言書も多く見られます。
ところが、そこでの書き方を誤ると、邪推をきっかけにした『争族』への発展に追い打ちをかけてしまう可能性があるのです。
どんな理由があれ、特定の人が優遇される遺言書は、「こんな遺言書は無効だ!」と言い争いになったり、「おまえだって昔こんなにお金をもらっていたんだから」と過去にまで遡って問題を大きくしていくことになりかねません。


②遺言書は生前の関係性を重視した書き方を

  遺言書をきっかけとしたトラブルを防ぐ方法として一番のおすすめは、日頃から、将来相続人となり得る家族や親族全員とコミュニケーションを取り、誰にどのような財産を遺すかについて自分の意思を直接かつ何度も伝えて、理解を求めることです。
  その意思が、たとえ『ほかの相続人』の気分を害するものであったとしても、相続が開始した段階で、生前に予告していたとおりの内容の遺言書が出てきたら、誰しもが異論を唱えづらいものです。

  しかし、諸事情によってコミュニケーションが取りづらいことや、疎遠な家族がいるということもあるでしょう。
そういう場合は、遺言書に付言事項や別紙を添えることになりますが、そこでも、書き方に注意と工夫が必要です。

特定の相続人の労だけを評価し、その人に財産を遺す理由だけを書いて内容を終わらせてしまっては、ほかの相続人に「私の労はなぜ無視されているの? なぜ私には財産を遺さないの?」という疑問を抱かせるだけになってしまいます。
また、ほかの相続人に財産を遺さない理由として、罵詈雑言を並べて終わるというのも、よろしくありません。
「遺言書にこの内容はおかしい。無理やり書かされたのでは?」というような疑念につながってしまいます。

遺言書や手紙には、相続人一人ひとりに対して生前の関わりに応じたメッセージを残し、自分の意思に理解を求める内容を記載しておくのが望ましいでしょう。
文章で伝えられる情報には限りがあり、誤解を招きやすいからこそ、きちんと『筆舌を尽くす』という努力が必要になるのです。

被相続人の理想通りに遺言書を作成すれば終わりというわけではありません。
日頃のコミュニケーションこそが、まさに『争族』対策の一つであり、遺言書は、その結果を法的に有効にするための手段に過ぎないということを理解しておきましょう。


※本記事の記載内容は、2020年9月現在の法令・情報等に基づいています。

 

誰がどれだけの財産を相続する?

2020.08.27

自分も家族も元気に生活できている場合、「相続はまだまだ先のこと」と思いがちですが、人生は何が起きるかわかりません。
実際に相続が発生する状況になって慌ててしまう人も多くいます。
相続でやるべきことは意外に多いもの。
時間が足りずに納得のいく相続ができないとなると、悔いが残ってしまいます。
そうならないためにも、相続の基本ルールは前もって押さえておきましょう。


相続人になることができるのは誰?

『相続』とは、ある人(被相続人)の財産関係が、その死亡を原因として一定の親族(相続人)に承継されることをいいます。
『相続人』は法律上定められており、遺言で相続人を指定することはできません。
また、相続人は、被相続人死亡時に生存していなければなりません。
例外的に、まだ生まれていない胎児については(生きて生まれることが前提ですが)、すでに生まれたものとみなされ、相続権が認められています。

それでは、具体的に誰が相続人となるのかですが、被相続人の配偶者は、常に相続人になります。
そして、第1順位の相続人は子です。
養子も子として相続人となります。
子が被相続人の死亡より前に死亡している場合で子(被相続人からすると孫)がいる場合は、例外として、子の分をその子が代襲して相続することができます。
これを『代襲相続』といいます。

第1順位の相続人がいない場合、被相続人の直系尊属(父母または祖父母)が第2順位の相続人となります。
父母と祖父母が存命であるときは、親等の近い父母が相続人となり、祖父母は相続人となりません。

子、直系卑属(子・孫)および直系尊属がいないときは、第3順位として兄弟姉妹が相続人となります。
被相続人の死亡以前に兄弟姉妹が死亡していた時は、その子が代襲相続します。


相続にはどのような効力がある?

相続の効力としては、相続開始の時から、その時に存在した被相続人の財産に属した一切の権利義務を相続人が承継することになります(被相続人の一身専属権、死亡退職金などの被相続人に属さなかった権利、祭祀財産等は除く)。
借入金などのマイナスの財産も同様に承継されます。
そして、相続人が数人いるときは、相続財産は、その共有に属することとなり、各共同相続人は、その相続分に応じて被相続人の権利義務を承継することになります。

なお、最高裁判決により、預貯金債権については、相続開始と同時に当然のように相続分に応じて分割されることはなく、遺産分割の対象となるとされました。
これを踏まえて、今般の相続法改正により、共同相続人は、遺産分割が成立する前であっても、一定額(相続開始時の預貯金債権額の3分の1に法定相続分を乗じた額で、上限150万円)を引き出すことができるようになりました。


誰がどれだけの財産を相続する?

被相続人(遺産を残して亡くなった人)の財産を相続する場合にあたり、各相続人の取り分として法律上定められた割合を『法定相続分』といいます。
法定相続分は、相続人が妻と子の場合は、妻は2分の1、子は2分の1となり、子が数人いるときは、その間の相続分は平等です。
非嫡出子も嫡出子と同等分です。

相続人が妻と直系尊属の場合は、妻は3分の2、直系尊属は3分の1となり、直系尊属が数人いる場合は、その間の相続分は平等です。
相続人が妻と兄弟姉妹の場合は、妻は4分の3、兄弟姉妹は4分の1となります。
父母の双方を同じくする兄弟姉妹間では相続分は平等ですが、父母の一方のみを同じくする兄弟姉妹の場合は、父母の双方を同じくする兄弟姉妹の相続分の2分の1となります。

これら法定相続分をもとに、『特別受益』『寄与分』を考慮して共同相続人の具体的相続分が算定されます。

・特別受益とは
特別受益とは、共同相続人のうち、被相続人から遺贈や生前贈与を受けた者があるときは、被相続人が相続開始時に有した財産の価額に遺贈または贈与の価額を加えた額を相続財産とみなし、当該相続人の具体的相続分は、遺贈等の価額を控除した残額とするものです。

・寄与分とは
寄与分とは、共同相続人のうち、被相続人の財産の維持または増加につき特別の寄与をしたものがあるときは、被相続人が相続開始時に有した財産の価額から寄与分を控除した価額を相続財産とみなし、当該相続人の具体的相続分は、寄与分を加えた額とするものです。


基本を踏まえてシミュレーションを

相続の基礎知識としては、今回ご説明したもののほかにも重要なものとして、遺産分割、相続の承認と放棄、遺言と遺留分などの問題があります。
相続はいつ発生するかわかりませんから、いざというときに慌てないためにも、基本ルールを知っておいたほうがよいでしょう。
そして、円満に相続を済ませるためには、基本を踏まえた上で、自分の家族の場合はどのようになるのか、どのような問題が発生しそうなのかを検討しておくことも大切です。
少しずつでも、具体的な備えを始めていくことをおすすめします。

 

争族を避けるために……押さえておくべき相続対策の3つの柱

2020.08.06

  家族の誰かが死亡すると相続が発生し、相続人の間で遺産を分割することになります。
このとき、相当の資産がある場合は、決して低額でない相続税を納付しなければなりません。
  相続は『争族』とも称されるように、往々にして、家族間・親族間で深刻な紛争が生じ、抜き差しならぬ関係に陥ることがあります。
したがって、このような紛争を避け、スムーズに相続ができるように前もって相続対策を講じておくことが肝要です。


相続税を低く抑えるためにできること

  相続対策としてまず考えられるのは、相続税を抑制、低減する『節税対策』でしょう。
相続税は、相続財産の価額(控除額を引く)に税率をかけて算出し、基本的には現金で一括納付するものです。
これを踏まえると、節税対策としては、(1)相続財産を減らす、(2)相続財産の評価額を下げる、ということがポイントとなります。

(1)相続財産を減らす
  相続財産を減らす方法として代表的なものが、生前贈与です。
原則として、生前贈与には相続税よりも高率な贈与税がかかりますが、年間110万円までの贈与であれば贈与税はかかりません。
そこで、年110万円の生前贈与を5年間続ければ、合計550万円の相続財産を減らすことができます。

  また、特別な目的のため、すなわち、住宅取得資金や教育資金、結婚・子育て資金などのために子や孫に生前贈与する場合、限度額(1,000万円ないし1,500万円)以内であれば特例で非課税となります。
婚姻期間20年以上の配偶者への居住用不動産の贈与や居住用不動産を取得するための金銭の贈与に対しては、最高2,000万円の控除が認められています。

(2)相続財産の評価額を下げる
  相続税は、相続財産の評価額に応じて課税されるので、評価額を減らす方策も必要となります。
同じ価値の現金と不動産がある場合は、不動産の相続税評価額は80%程度に減額されます。
したがって、節税対策として不動産を購入するケースは多くあります。
ただし、不動産の価額は変動するので、購入の際は、相続発生の頃までに価額がどうなるのかを考える必要があります。

次に、市街地など評価額が高くなりやすい土地を所有している場合は、分筆したり、土地上に建物を建築したりすることで評価額を下げることができます。
遊休土地(土地取得後2年以上利用されていない土地)などの場合、これをほかへ賃貸したり、アパートなどを建築して賃貸したりすることで、貸家建付地として評価額を抑えて節税効果をあげることができます。

また、被相続人と相続人が同居して生活を同一にしているケースにおいては、その相続人がその自宅(面積330㎡まで)を引き継ぐ場合は、評価額が80%減額されます。
したがって、相続人が自宅を引き継ぐのであれば、その予定の相続人と同居しておくなどの対策を立てておくとよいでしょう。


相続税を納めるための資金を準備しておく

  相続税の申告・納付は、相続発生日の翌日から10カ月以内にしなければなりません。
また、相続税は、原則として現金で納付する必要があります。
したがって、その資金を相続税納付期限までにどのようにして用意するかという納税資金対策も重要です。

  相続時の資金を増やす方策としてまず考えられるのは、被相続人を被保険者とする生命保険でしょう。
生命保険は、相続が発生したときに受取人にまとまったお金が入るので納税資金に充てることができます。
生命保険金は、みなし相続財産になりますが、『500万円×相続人数』の金額までは非課税となるというメリットもあります。

  納税資金対策としては、このほかにも、空き地などの遊休資産を売却したり、土地や建物を賃貸する賃貸事業によって得られる賃料を蓄えておいたりすることが考えられます。
ただし、遊休資産の売却により売却益が出ると、所得税を納付する必要が出てきます。


遺産分割で揉めないために事前に話し合いを

  相続が発生すると遺産分割の問題が生じます。
したがって、相続対策としては、相続人がどの財産を取得するかという遺産分割についての対策も重要です。

  遺産分割の対策としては、遺産を相続人の誰がどのように取得するかについて、生前に被相続人が自分の意思で定めておくこと、すなわち、遺言をしておくことがあげられます。
このとき、単に相続時に残る財産だけでなく生前贈与した財産も含めて明らかにし、そのうえで、たとえば事業の承継者に事業資金を含む資産を承継させたいときなど各相続人に平等に分割しない場合は、遺留分(法定相続分の2分の1)に抵触しないように各相続人の取得分を決めることが肝要です。

また、遺言というと、相続人の間で、後々にその効力が問題にされることがあるので、遺言能力が問題にならない時点で遺言書を作成しておくことも重要です。
改正相続法により、遺産目録などの別紙は自書する必要がなくなり、遺言書(自筆証書遺言)を作成しやすくなりました。
遺言は、何回でもやり直すことができるので、あまり深刻に考えずに、死後の相続人同士の調整に役立てるためにも、被相続人の意思(遺志)を明確にして遺言書を作成しておくべきでしょう。

以上の『相続税対策』『納税資金対策』『遺産分割対策』が、相続対策としてまず知っておきたい3つの柱です。
このほかにも重要な事柄はいくつもありますが、まずはこの3点について早いうちから考えておくとよいでしょう。


※本記事の記載内容は、2020年8月現在の法令・情報等に基づいています。

 

遺留分に相当する金員が支払えないときの対応策とは?

2020.07.29

  2019年7月1日、改正相続法が施行されました。
  そのなかの一つに、遺留分侵害額請求に関する期限の許与の制度があります。
これは、相続人がほかの相続人に遺留分侵害額請求をされたとき、相当する金員を支払うことがむずかしいといった場合の対応策になります。
そこで今回は、この制度の詳しい内容について紹介します。

遺留分侵害額請求の期限の許与の制度とは?

  たとえば被相続人が、自身の持っている不動産や不動産管理会社の株式を、事業を継いでくれる相続人一人に相続させたいと考えたとします。
そうすると、財産が一人に集中してしまうことになります。
それら以外の預貯金等の財産が潤沢にあって、ほかの相続人たちにも十分に財産が行きわたるのであれば問題ありませんが、そういう状況ばかりではありません。

 これに対して、ほかの相続人が遺留分侵害額請求(遺留分は、相続人が法律上、最低限もらうことのできる遺産のこと。ちなみに、兄弟姉妹が相続人の場合には遺留分はありません)をすることがあります。
しかし、相続したものが不動産や株式などばかりで、それほど預貯金がない場合は、ほかの相続人たちに遺留分に相当する金員を支払うことはむずかしいでしょう。

 そこで、相続の対象が直ちに換価できない不動産ばかりといった場合に、ほかの相続人に対して支払う遺留分に相当する金員の支払期限の先延ばしを求めることを『期限の許与の制度』といいます。
ただし、期限の許与を求めたとしても、支払い期限が必ずしも延長されるわけではありませんので注意が必要です。


期限の許与が認められた場合の効果

 まず、期限の許与を求めるにはどうすればよいでしょうか。
民法1047条5項は、『裁判所は、受遺者又は受贈者の請求により、第一項の規定により負担する債務の全部又は一部の支払につき相当の期限を許与することができる。』と定めています。
つまり、期限の許与には、裁判所に対して訴訟を提起し、行使することが必要となります。

期限の許与が認められた場合、遺留分侵害額請求の弁済期(支払日)が先延ばしとなります。
『期限』という日程的な利益を得ることができ、本来であれば遅延に伴う損害金の支払い義務がなくなります。
一方、規定では『全部又は一部』(民法1047条5項)とあるため、一部にのみ期限の許与が認められることがあります。
たとえば、遺留分に相当する額として、遺留分侵害額請求権者に対して、1,000万円を支払わなければならない場合に、1,000万円のうち300万円についてだけ期限の許与が認められるという可能性もありえるのです。

 今後、自身の不動産をどのように次世代に承継していくか悩んでいる人、不動産を承継することになりそうで遺留分侵害額請求を受けるかもしれないと不安な人は、『期限の許与の制度』の利用を検討してみてもいいかもしれません。

 

遺産分割前の預貯金の払戻し、仮払いが可能?!

2020.07.17

 親族が亡くなったとき、葬儀費用やその後の生活費の捻出に困る場合があります。
被相続人の預貯金を払い戻し、これに充てたいと考える人もいるでしょう。
しかし、これまでは、複数の相続人が共同相続した預貯金について、遺産分割前の個々の相続人への払戻しは、相続人全員の同意がない限り認められませんでした。
 これが『改正相続法』により、葬儀費用など相続人の資金需要に対応できるよう、相続人単独での払戻しが可能となりました。
 そこで今回は、“遺産分割前の預貯金の払戻し制度”についてご紹介します。

葬儀費用のためでも預貯金が払い戻せない!

 Aさんの父は、病気で入院治療を受けていましたが、先般亡くなりました。
遺産としては、X銀行に預金(1,800万円)があるだけです。
Aさんは長男で、父の相続人としてほかに弟のBさんと妹のCさんがいます。
Aさんはあまり預貯金や現金の持ち合わせがなく、父の葬儀費用の捻出や病院の治療費の支払のために、父の遺産の預金を払い戻してこれらに充てたいと考えていますが、弟や妹とは仲が悪く、これについて二人から同意を得ることができません。
 このような場合、どうすればよいでしょうか。

被相続人の預金の払戻しに関して、『改正相続法』以前は法律による規定はなく、最高裁判所の決定を基準としていました。

 従前の判例では、預貯金等の債権については、相続開始と同時に当然に、各共同相続人にその相続分に応じて分割され、各共同相続人は、分割により自己に帰属した債権を単独で行使することができると解されていました。
つまりAさんは、単独で相続分(3分の1)の600万円について、X銀行から預金の払戻しを受けることができるということになります。
 しかし実際は、『相続人全員の合意がないと相続人単独の預貯金の払戻しには応じない』とするのが金融実務の実状で、遺産分割前は相続人が単独で預貯金を払い戻すことができませんでした。

 その後、最高裁平成28年12月19日決定(民集70巻8号212頁)により、“相続された預貯金債権は遺産分割の対象に含まれる”こととなりました。
つまり、預貯金債権は共同相続人全員の準共有状態となり、遺産分割が終了するまでは共同相続人による単独での払戻しができないこととされたのです。
払戻しをするには、共同相続人全員が合意し、全員が共同して行使しなければなりません。
 これでは、生活費や葬儀費用の支払、相続債務の弁済など、相続人の死亡後の早い段階で出てくる資金需要に対応することが困難です。

改正相続法で可能となった“単独での払戻し”

 改正相続法では、このような不都合を解消するために、相続開始後遺産分割終了までの間、一定の上限を設けたうえで、家庭裁判所の判断を経ないで、単独で金融機関の窓口において預貯金の払戻しを受けることができる制度が創設されました(909条の2)。
 単独で払戻しができる額は、『相続開始時の預貯金債権額×3分の1×当該払戻しを行う共同相続人の法定相続分』です。
ただし、同一の金融機関からの払戻しは、法務省令が定める150万円を限度とします(ちなみに、相続開始直後に資金需要が一番高いと考えられる葬儀費用の平均的な金額が150万円です)。
Aさんの場合、単独で払戻しができる額は『1,800万円×3分の1×3分の1=200万円』となりますが、同一の金融機関から払戻しは150万円が限度であるため、Aさんが単独でX銀行から払戻しできるのは150万円までとなります。
ここから、父の葬儀費用や父の病院の治療費を捻出し、支払に充てることができます。

 改正法909条の2は、さらに、払戻しを受けた(権利行使された)預貯金債権について、『当該共同相続人が遺産の一部の分割によりこれを取得したものとみなす』と定めています。
これは、誰が預貯金を払い戻したか客観的に明らかであり、当該権利行使された預貯金債権について、遺産分割においてこれを当該相続人以外の者に帰属させる必要性もないことから、このような定めになったものです。

なお、改正法909条の2は、あくまでも共有法理の例外を設けたもので、第三者であるAさんの債権者がAさんの準共有持分(3分の1)を差し押さえた場合には、差押えによる処分禁止効により、Aさんは、本条による預金の払戻しを受けることができなくなると考えられます。

厳格だった“遺産の仮分割”の要件も緩和

 なお、相続法改正に伴い、家事事件手続法200条3項も改正、追加されています。
これにより、家庭裁判所に遺産分割の調停・審判の申し立てを行えば、家庭裁判所の判断で預貯金の全部または一部の仮払いを受けることができるようになりました(保全処分の要件緩和)。

もともと、改正前の家事事件手続法でも、家庭裁判所に『保全処分』を申し立てし、要件を満たせば、預貯金の仮分割・払戻しの仮処分を受けることはできました(200条2項)。
ただし、そのためには『強制執行を保全し、又は事件の関係人の急迫の危険を防止するため必要があるとき』という厳格な要件が課せられており、実際のところは容易にはできない状況でした。

 この要件が、今回の改正により緩和されたわけです。
適用要件は次の通りで、申立権者は、遺産分割の調停、審判の申立人またはその相手方です。

(1)遺産分割の審判または調停の本案が家庭裁判所に係属していること。
(2)相続財産に属する債務の弁済、相続人の生活費の支弁等のため必要であること。
(3)ほかの共同相続人の利益を害しないこと。

なお、仮分割により申立人に預貯金の一部が仮払いされても、本案においては、改めて仮分割された預貯金債権を含めて遺産分割の調停、審判をすべきものと考えられます。

 

よかれと思ってやったのに……究極のありがた迷惑『みなし贈与』

2020.07.09

  自分の子や配偶者のために、自らの財産を譲りたいと思う人は多いでしょう。
その際に、贈与税が発生するか否かは、多くの人が気にするところです。

  ですが、『みなし贈与』はどうでしょうか?
贈与税は、贈与した場合にだけ発生するものではないのです。
ここを見落とすと、よかれと思ってやったのに、あとに遺された人が思わぬ課税で苦しむということにもなりかねません。
そうならないためには、どうしたらよいのでしょうか? 

①どういったものが『みなし贈与』になるのか

 まず、『贈与』とは、当事者の一方が自己の財産を無償で相手方に与える意思を表示し、相手方が受諾することによって成立する契約をいいます(民法549条)。
 この定義からすると、たとえば、安く財産を譲り受けた場合や借金を帳消しにしてもらったような場合には、法律上は『贈与』には該当しません。
しかし、法律上『贈与』には該当しなくても、対価を支払わないで利益を受けたり、著しく低い価額の対価で利益を受けたりする場合には、実質的には贈与を受けた場合と同様の経済的効果が生じます。
 そこで、課税の公平を図る観点から、このような場合にも、贈与により財産を取得したものとみなして、贈与税を課すことにしているのです。
これが、『みなし贈与』といわれるものです。
次に、代表的な事例をご紹介します。 


みなし贈与の具体例(1)保険金や年金など

 親が「子どもが将来受け取れるように」と生命保険をかけたり、個人年金の積立てを行ったりすることがあると思います。しかし、これは保険料や掛金を親が支払っているわけですので、子どもが満期を迎えた保険金などを受領する場合には、子どもに贈与税が課されることになります。
 このようなケースの多くは、その子の幼いうちから、親が子に知らせることのないまま支払いを行っているため、子は保険金などを受け取った後に、突然の税務署からの通知によって贈与税の存在を知ることになります。
親の死亡によって保険金を受け取る場合(この場合の保険金は『みなし贈与』財産ではなく『みなし相続』財産となります)と異なり、非課税とはなりませんので、注意が必要です。 

 

みなし贈与の具体例(2)不動産の譲渡など

 息子が結婚することになったので、自分が所有する不動産を息子に譲ろうと考えた親がいるとします。その場合、無償で譲ったのでは贈与税がかかってしまうと考えて、安く譲ってあげることを検討することがあると思います。この場合、たとえば、通常1億円の不動産を息子が1億円で買い取れば、不動産を譲り受けた息子に贈与税が発生することはありません。しかし、これを1,000万円で譲渡した場合には、法律上は『贈与』にはなりませんが、1億円との差額9,000万円について贈与税が発生することになります。
 贈与税はほかの税目よりも税率が高いので、せっかく安く不動産を譲り受けることができたとしても、息子は高額の贈与税の支払いに苦しむ事態が想定されます。
 また、その場合の贈与税を親が立て替えれば、厳密にはそれも『みなし贈与』に当たり、立て替えた部分に更に贈与税が発生するという悪循環に陥ります(実際に税務署が立て替えた事実まで把握するかどうかという問題はあります)。
また別の例では「長年連れ添った妻が安心して老後を過ごせるように」と、家の名義を妻に変更することを考える夫がいるとします。
 この場合も、妻は無償で家を取得できることになりますので、妻には贈与税が発生することになりますが、妻に収入や預貯金などがなければ、妻自身が数百万円(不動産の価値によっては数千万円)もの贈与税を支払うことは不可能でしょう。

②みなし贈与を回避するためにできること

 これらの事例からわかるように、家族のためによかれと思ってやったことなのに、結果として、家族が高額の贈与税の支払いに苦しむという事態になりかねないのが、『みなし贈与』の怖いところです。 しかも気づいた時(税務署からの通知を受けた時)には申告期間を過ぎているため、もれなく加算税が上乗せされてしまいます。
 このような事態を回避するための第一歩として、まずは、法律上『贈与』ではなくても贈与税が発生する場合があるということを知っておきましょう。 そのうえで、配偶者に居住用不動産を贈与するような場合や親から子へ住宅取得資金を贈与するような場合など、税法上用意されているさまざまな非課税制度を上手に活用しましょう。
 ただし、非課税制度の適用を受けるためには贈与税の申告をすることが必要になりますので、申告を忘れると、多額の贈与税が発生することになります。
 この点も、ご注意ください。 

 

戸籍謄本等の取得をラクにする『法定相続情報証明制度』とは

2020.07.01

 

  被相続人が亡くなると、残された相続人はしばらくの間、さまざまな相続手続きに奔走することになります。
なかでも被相続人との相続関係を証明するために必要とされる『戸籍の収集』には非常に手間がかかり、これが相続人にとって大きな負担となっている実情がありました。

 そこで、2017年に創設されたのが『法定相続情報証明制度』です。

 この制度を利用すれば、手続きのたびに被相続人や相続人の戸籍を収集する必要がなくなるというメリットがありますので、今回はこの制度について解説していきます。


戸籍の取得は相続手続きの『壁』となっている
 

 相続が発生すると、被相続人が所有していた不動産や預貯金、株式などについて、登記の変更や名義変更、解約など、さまざまな相続手続きをすることになります。
 その際に必ずといってよいほど必要になるのが、『被相続人が出生してから死亡するまでの戸籍謄本等』です。
 相続手続きは、自身が被相続人の相続人であると証明しなければできないため、各種手続きの都度、被相続人の戸籍謄本等の束を窓口に提出することになります。
 
 「戸籍なんて簡単にとれるのでは?」と思う方もいるかもしれませんが、実際にやってみると、これが大変面倒な作業なのです。
もちろん、被相続人の戸籍の変動が少ない場合は、簡単に取得できることもあります。
しかし、戸籍は、結婚により、新たに作成されますので、少なくとも2通取得すべき戸籍があるということになります。
 さらに、養子縁組がなされている場合や本籍地が変更されている場合など、変更回数が多くなれば、集める戸籍もより多くなります。
戸籍を取得するためには、本籍地の役所(市役所・区役所・役場など)に直接赴くか、郵送での請求が必要です。
被相続人が本籍地の移動をしており、以前の本籍地が遠方だった場合には、以前の本籍地にも請求をしなくてはなりません。
戸籍をただ取り寄せたいだけなのに、手続きの都度、手間と費用がかかることになります。

 また、前述したような相続手続きの際には、被相続人だけではなく、相続人全員の戸籍も必要です。
そうなると、相続人が多いケースなどでは手間もより多くかかりますし、コスト面でも、1回の戸籍の取得費用だけで1万円を超えてしまうこともあります。
 


『法定相続情報証明制度』で戸籍の取得を簡略化
 

この手続きを簡略化しようと2017年に始まったのが、『法定相続情報証明制度』です。

 これは『法定相続情報一覧図』(戸籍と相続関係を一覧に表した図)を作成することで、公的に被相続人の法定相続人が誰かをわかるようにするというもの。
相続手続きの際、『法定相続情報一覧図の写し』を提出すれば、戸籍謄本等の束を提出することが不要となります。

 つまり、この制度を利用すれば、従来の相続手続きの際にかかっていた手間や金銭的負担が軽減できるというメリットがあるのです。
法定相続情報証明制度を利用したい場合は、全国の登記所(法務局)で手続きをします。
 まず、相続人が一度、戸籍謄本等の必要書類を集め、『法定相続情報一覧図』(戸籍と相続関係を一覧に表した図)を法務局に提出します。
すると、法務局の登記官が、その書類を確認したうえで『法定相続情報一覧図』の認証を行い、偽造防止措置の施された専用の用紙で、認証文付きの『法定相続情報一覧図の写し』を発行してくれます。

 『法定相続情報証明制度』は、申請料と証明書の写しの発行手数料が無料であり、法定相続情報一覧図の保管期間中(5年間)であれば何度でも再発行が可能ですので、いくつもの相続手続きがある場合などに、スムーズに事を進めることができます。
 もちろん、手続きの際に『法定相続情報一覧図の写し』を使うことを義務づけられているわけではありませんので、従来どおり戸籍を一つひとつ集めて手続きをすることも可能です。
 

 この制度により、法務局や大手金融機関等での相続手続きを同時に進行することが容易となるため、費用だけではなく時間の短縮にもなります。
相続に伴う手続きが格段に効率化され、相続登記が促進されることになるでしょう。
 煩雑な手続きを少しでも軽くしたい場合は、一度検討してみてもよいかもしれません。

※本記事の記載内容は、2020年6月現在の法令・情報等に基づいています

2020年7月から始まる自筆証書遺言の保管制度とは?

                                                                                                                         2020.06.17

 死後の自身の財産の処分等について意思を伝えるための法的な文書『遺言書』には、『自筆証書遺言』『公正証書遺言』『秘密証書遺言』の3つがあります。このうち、『自筆証書遺言』は遺言者自身が自宅などで書くことができるため、手軽に作成することができます。
 実は、自筆証書遺言の法務局による保管制度が新たに2020年7月10日から始まります。


そこで、その内容について、詳しくご紹介していきます。


法務局の書式で作成して保管
 自筆証書遺言は、いつでも書くことができ、費用もかからないという利点がありますが、作成に専門家の関与がないため無効となったり、自身の死後に親族が発見できなかったり(場合によっては、遺産分割協議の後に発見されることもあります)、複数の遺言書が存在することもあります。
 そこで、自筆証書遺言の利便性を生かしながら、できる限り不便を解消する制度として、法務局による遺言書の保管制度が新たに始まります。

 

法務局が保管できる遺言書は自筆証書遺言のみです。


 また、保管する際には、法務省令に定められた形式で作成されている必要があります。
『法務省令に定められた』というと堅苦しく感じますが、これに沿って遺言を作成すれば、遺言が無効となる可能性は非常に低くなるはずです。
 さらに、法務局が遺言書の原本およびデータを保管するということは、相続人が遺言を探しやすくなるということを意味します。
遺言書保管法第4条第3項によれば、遺言書を保管できる法務局は、遺言者の住所もしくは本籍地、または、不動産の所在地を管轄する法務局のみとなります。
もし遺言を残した人物が、住所を転々としていたり、本籍地を次々と変えたり、不動産を多数所有していたりしても、どこにあるのか皆目見当もつかない遺言を探すよりは、限定された法務局に照会をするほうが格段に楽でしょう。

家庭裁判所による検認手続が不要に
 現在の法律では、自筆証書遺言の場合、家庭裁判所による検認手続を経なければ、遺言によって、不動産の登記を移転したり、預金を払い戻したりすることはできません。
しかし、公的機関である法務局に遺言を保管してもらっておくと、当該遺言には検認手続が不要となります。
そのため、法務局による遺言保管制度を利用しておくと、相続発生後の家庭裁判所の手続を省けるというメリットもあります。
 法務局による遺言書保管制度は自筆証書遺言のメリットはそのままに、できるだけこれまでのデメリットをなくした制度といえそうです。

 

忘れないよう注意が必要! 遺言書の検認手続、遺留分

                                                                                                                         2020.06.17

 遺言書を保管していた人や、被相続人が亡くなった後に遺言書を発見した人は、遺言者の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に検認の申し立てを行う必要があります。
 そして、財産の相続には、一部の法定相続人に認められた最低限遺産を取得できる遺留分があります。
 今回は、相続が開始したらすぐに手続をしたほうがよい『遺言書の検認手続』と『遺言の遺留分』について紹介します。


①遺言書は開封する前に検認手続が必要
 
 被相続人が亡くなった瞬間から、相続は自動的に開始となります。
相続が開始した後、相続人らは、すぐに遺言書を開封してはならず、家庭裁判所に遺言書を提出して検認の手続を受けなければなりません。
 検認とは、相続人に対し遺言の存在およびその内容を知らせるとともに、遺言の形状やその内容を明確にして遺言書の偽造や変造を防止するための手続です。
それゆえ、実質的に遺言の内容、効力等を判断するものではありません。
遺言書検認の申し立ては、自筆の遺言書を保管していた者または遺言書を発見した相続人が、遺言者の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に対して行います。
その際に必要な書類は、遺言者の出生時から死亡時までの連続した戸籍謄本と相続人全員の戸籍謄本です。
 検認申し立てにかかわる費用としては、遺言書1通につき収入印紙代金800円と、そのほかには家庭裁判所との連絡用郵便切手も必要となります。
遺言書検認の申し立てをすると、裁判所から相続人全員に対して検認期日(申し立てから大体1カ月後くらい)の通知がされます。
当日は、相続人全員が出席しなくても検認手続は実施されますが、申立人は、必ず遺言書を持参して出席しなければなりません。
 当日、出席者の立会いのもと、申立人から提出された遺言書が開封され、その形状等、全文、日付、筆跡、署名、押印、加除訂正の形式・内容等が確認されます。
 遺言書検認手続が終了すると、申立人らの申請(150円分の収入印紙が必要)により検認済証明書が発行されます。
 遺言の執行をするためには、遺言書に検認済証明書が付されていることが必要です。


 なお、2020年7月10日から施行される『法務局における自筆証書遺言書保管制度』を利用すると、遺言書の検認手続は不要となります。

 

②遺言がすべてではない! 遺産相続の遺留分に注意
 個人で事業を営む経営者などは、事業の承継のため、共に事業を営む長男に必要な資産すべてを承継、すなわち相続させたいと考え、その旨の遺言書を作成することがあります。
 しかし、他に相続人がいる場合、たとえ財産すべてを長男に相続させるとの遺言をしても、相続人の権利である遺留分を排除することはできません。
遺留分とは、相続人の生活保障のために、一定の相続人である配偶者、子(直系卑属)、父母・祖父母(直系尊属)に法律上必ず保留しなければならない遺産の一定部分で、原則、法定相続分の2分の1となります。

 たとえば、不動産、動産、預貯金等の遺産の総額が8,000万円ある被相続人が、相続人である長女に預金1,000万円を譲り、残りはすべて長男に相続させるという遺言をしたとします。
 この場合、法定相続分は各2分の1なので、遺留分はその2分の1である4分の1(2,000万円分)となります。
 したがって、長女について遺留分の1,000万円分が侵害されており、遺留分侵害額請求権を行使すれば、長男に対し、遺留分侵害額に相当する1,000万円の支払いを請求することができます。  

 以上のように遺言は、事業を承継する相続人の一人に資産のほとんどを相続させるような内容の遺言をしようとする場合、他の相続人の遺留分を侵害しないように注意する必要があります。
 ところで、事業を承継することになる長男は、相続が発生していきなり長女から1,000万円の支払いを請求されても、ただちに支払いに応じられないというのが実情でしょう。
 2019年から段階的に変更・新設されている新相続法では、このような場合、長男が請求すれば、裁判所により長男の負担額1,000万円の全部または一部の支払いについて、相当の期限を許与してもらうことができます。
これにより長男は、事業を継続しながら長女への支払いについて猶予を得て、その間にその資金繰りをすることができるようになります。
 

相続が開始したら、まず、遺言書の検認手続や遺留分の確認を行うことが重要です。

パソコン使用も可に! 相続法改正で遺言書作成・保管はどう変わる?

2019.4.25

2018年7月13日、『民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律(改正相続法)』が公布。
今回の見直しは高齢化社会の進展などに対応するためのもので、多岐にわたる改正項目が盛り込まれていますが、その一部に『自筆証書遺言』の方式緩和、そして遺言書の保管制度の創設があります。
今回は、わずらわしかった遺言書の作成や保管にまつわる改正点を、詳しくご説明します。
①現行法では、高齢者の事業承継が困難に……
【事例】
Aさんは、妻と共に機械部品製造業を営んでいましたが、妻が死亡し一人暮らしに。
父親の健康を心配した長男のB夫さんが帰郷し、Aさんと同居しながら事業を手伝っていました。
やがてAさんは、高齢化に伴って心身の衰えを感じ、家業を息子のB夫さんに承継させる決意をします。
遺産としては、自宅の土地建物(評価額4,300万円)、その地続きにある事務所・工場の土地建物と駐車場用土地(評価額合計5,400万円)、また、預貯金として金融機関三行の預金と郵便貯金(合計3,220万円)がありました。
Aさんは、このうち土地建物と預貯金2,000万円を長男のB夫さんに、そして預貯金1,220万円を長女のC子さんに相続させる旨の遺言書を自筆で作成することにしました。
 
現行法では『自筆証書遺言』とは、遺言者が遺言書の財産目録を含む全文、日付および氏名を自書し、これに押印することによって成立する遺言です。
つまりAさんは、遺言の本文、日付、氏名のみならず、B夫さんとC子さんそれぞれに残す遺産の詳細な目録も、すべて自分で手書きして作成する必要があり、パソコンなどは使用できません。
書き間違えや変更したいことがあれば法律の取決めに従った加除訂正をしなければならず、その訂正方法に不備があった部分は無効となってしまいます。
この厳格な現行法に基づいて、何日もかけてすべて手書きで行われた遺言書作成は、高齢で視力や手元のおぼつかないAさんにとって、非常に苦労を伴うものとなってしまいました。
 
②全文の自筆は不要となり、高齢者にも光明が
このように、現行法では作成が大変だった自筆証書遺言ですが、改正相続法では、利便性の観点からその方式が緩和され、自筆証書に相続財産の目録を添付する場合には、その目録については自書する必要がなくなりました(968条2項)。
目録をパソコンなどで作成できることはもちろんのこと、遺言者以外の者が代筆することもでき、さらに銀行の預金通帳のコピーや不動産の登記事項証明書などを目録として添付することもできるようになったのです。
 
このため、もしAさんの自筆証書遺言が改正相続法施行後だったのであれば、Aさんが自筆する必要があるのは、本文の、「別紙目録1ないし3の不動産、別紙目録4の預貯金をB夫に、別紙目録5の預貯金をC子に相続させる」と日付、そして署名のみ。
後は、パソコンやコピーでつくった別紙目録1ないし5を添付すれば、正式な遺言書は完成です。
ただし、施行後であっても、遺言の偽造を防止するためにも、自筆によらない部分の目録の全ページに、記載がページの両面におよぶ場合には両面に、くまなく署名押印しなければなりません。
ちなみにこの印は、遺言書本文に押捺された印と必ずしも同一のものでなくてもかまいません。
また、目録を含む自筆証書を加除その他変更することもできますが、遺言者がその場所を指示し、これを変更した旨の付記を証書にして特にこれに署名し、その変更の場所に押印しなければなりません(968条3項)。
このように、財産目録だけでも手書きの負担が軽減され、記載内容の不備により無効となる危険も減り、高齢者でも自筆証書遺言をしやすいように改正されました。
今後、高齢化が進むなかで、自筆証書遺言の利用が増加することが見込まれます。
改正相続法は順次施行されていきますが、この自筆証書遺言の方式緩和については、いち早く2019年1月13日から施行されています。
③公的機関が遺言書を保管する新制度も創設
その他の改正相続法の遺言制度に関する見直しとしては『法務局における遺言書の保管等に関する法律』が同時に公布され、公的機関(法務局)における自筆証書遺言に関わる遺言書の保管制度が創設されています。
わかりやすく言うと、法務局が『自筆証書遺言』を保管してくれる制度です。
これは遺言書の紛失などを防止し、また、遺言書の真正をめぐる紛争をできる限り抑止するため、法務局による自筆証書の遺言書を保管する制度を創設し、その効果として、家庭裁判所による遺言書の検認を要しないとするものです。
制度施行後は、遺言者は自ら作成した自筆証書の遺言書について、遺言者の住所地又は本籍地又は所有する不動産の所在地を管轄する『遺言書保管所』に自ら出頭して、その遺言書保管官に対して保管申請をします(4条)。
遺言書保管官は、遺言書をデータ化して画像データを遺言書保管ファイルで保管、管理します。
遺言者は、いつでも自ら遺言書保管所に出頭して、当該遺言書(原本)の閲覧をすることができます(6条)。
また、いつでも自ら同所に出頭して撤回書等を提出することで、上記保管の撤回をすることができます(8条)。
遺言者の相続人、受遺者等は、遺言者の死亡後、遺言書の画像情報等を用いた証明書(遺言書情報証明書)の交付請求や遺言書原本の閲覧請求をすることができます(9条)。
 
家庭裁判所による遺言書の検認が不要となるため、相続登記や遺産である預金の解約手続などが早期に行われる利点が生まれます。
改正で大きく変わるさまざまなことの一つであるこの遺言書保管制度についても、施行後の活発な利用が予想されています。
施行は2020年7月10日からとなっています。
 

 

事故物件を相続した場合にかかる税金と対策方法

2019.3.10

一般的に“事故物件”と呼ばれる自殺や他殺、変死などが起こった物件。

当然ながら入居者は見つかりにくく、資産としては悩ましいものです。
そんな物件でも相続をする場合は、通常通りに相続税がかかります。
今回は、事故物件を相続しなければならなくなった場合に考えられる対策方法を見ていきましょう。
 
1)事故物件の多くは『心理的瑕疵物件』
不動産業界では、事故物件のことを『心理的瑕疵(かし)物件』と呼んでいます。
ここでいう瑕疵とは、不具合や欠陥のこと。
つまり、実際に欠陥が露わになっていなくても心理的に影響を受ける場合がある物件、ということです。
心理的要因は人によって感じ方が異なるため、一概に定義することはできませんが、基本的には「借りる前(買う前)に知っていたら住まなかっただろう」という心情を持つような物件を、心理的瑕疵物件としているようです。
賃貸で部屋(家)を借りる場合であれば、事故物件であることを知った時点で断ることができますが、相続となるとそうはいきません。
たとえば、高齢で一人暮らしをしていた実母が自宅で自殺をしたとします。
自宅が実母名義のものであれば、その子どもなど相続人にあたる人が相続をすることになります。
 
2)事故物件も通常物件と同額の相続税
事故物件であれ、相続税は徴収されます。
また、誰も住まないような状況になったとしても固定資産税を支払わなければならないのです。
さらに、その家を維持するための定期的な清掃やセキュリティ管理など、税金以外の費用や手間がかさむ場合も出てきます。
もし、この先住む予定がなかったり、活用できずに持て余しているのであれば、売却したほうがメリットは大きいでしょう。
不動産会社によっては敬遠されることもあるようですが、事故物件を専門に取り扱う業者もあるので、売却することは可能です。
事故物件に対しての不動産売買価格は、その周辺相場の2~3割程度、場合によっては半値程度で売却されることが多いようです。
事故物件には告知義務があります。
心理的瑕疵がある物件は、その内容を買い手や借り手に事前に知らせることが、宅建業法47条で定められています。
これを怠ると、後に発覚した場合に訴訟にまで発展してしまうケースもあるので、十分注意しましょう。
 
3)新法の施行で古家の税率が上がった
土地に家屋が建っている場合、かつては更地に比べて固定資産税はおよそ6分の1だったので、古家をそのまま放置してしまうケースが散見されていました。
ところが、2015年に『空家等対策の推進に関する特別措置法』が施行され、古い物件での固定資産税の税率が上がったのです。
 
事故物件を相続し、それを運用する場合、通常の不動産取引と同じ感覚ではうまくいきません。
税金等は通常物件と同等にかかります。
なるべく早期に不動産業者へ相談することで、相続に関わる費用がある程度抑えられるのではないでしょうか。

 

生産緑地の2022年問題、その対応策とは?

2019.2.19

都市部をはじめとした全国各地には、“生産緑地”に指定されている農地があります。
市街化区域内にありながら農地として扱われている生産緑地は、農地としての管理が求められる代わり、固定資産税が農地並みに軽減されるなどの優遇措置を受けています。
この生産緑地が抱える『2022年問題』が、今、注目を集めています。
そこで今回は、『2022年問題』とは何なのか、どのような対応策が考えられるのか、ご紹介します。
 
1)そもそも『2022年問題』とは?
 
生産緑地制度は、1991年の生産緑地法の改正により始まりました。
その背景には、都市部の開発が進んだことによる住環境の悪化や自給率の低下があり、
それらに歯止めをかけるために始められた制度とされています。
翌年、法律に基づいて都市部の一部の農地は生産緑地となり、固定資産税や相続税についての優遇措置を与える代わりに30年間の営農義務が課されました。
つまり、生産緑地は転用して農地以外に使用することはできなかったということです。
この年、多くの農地が生産緑地の指定を受けましたが、それから30年が経過する2022年には指定が解除され、自治体への買い取り請求が可能になります。
これにより不動産市場にも大きな変化がもたらされることが予測されており、これが『2022年問題』と呼ばれています。
生産緑地法の改正時には2022年に自治体が時価で買い取るという想定でしたが、実際には予算不足で買い取り拒否となる場合が多いと見込まれています。
その場合でも転用、売却は可能であり、もし宅地に転用すれば時価で売れるため、高額売却も期待できます。
そのため宅地などに転用するケースが多数起こると見込まれ、これによる不動産市場への影響が懸念されているわけです。
 
2)生産緑地の指定解除の条件、手続き方法は?
 
生産緑地を農地以外の用途で使用するためには、指定を解除しなければなりません。
そのための条件は下記の3つとなります。
 
【生産緑地の指定解除の条件】
(1)生産緑地指定から30年が経過した場合
(2)病気などの理由で主たる従事者が営農することが困難になった場合
(3)主たる従事者が死亡し、相続人などが営農しない場合
 
この3つの条件のうちいずれか1つを満たせば、生産緑地の指定解除を行うことができます。
手続きとしては、まずは各自治体に生産緑地の買い取りの申し出を行います。
自治体は申し出を受けてから1カ月ほどで買い取るかどうかを決定しますが、財政上の理由から買い取り不可となるケースがほとんどとなるでしょう。
買い取り不可となれば、各自治体が農地としての買い取り先をほかに探し、農業従事者に対して2ヶ月ほど斡旋を行います。
もし買い取られない場合、生産緑地は解除され通常の農地となるため、転用や地目変更などの手続きが可能となります。
以上が手続きの大まかな流れですが、自治体によって対応が異なる場合もあるため、詳細な手続き方法は各自治体に必ず確認するようにしてください。
また、指定解除の手続きには3ヵ月ほどかかります。
申請を行う場合には余裕をもったスケジュールを組むようにしましょう。
なお、生産緑地の指定を延長することもできますが、農地は維持管理が必要であり、相続した子世代にも営農義務が課せられます。
 
3)指定解除後の土地はどう活用する?
 
では、指定を解除した生産緑地の活用方法としては、どのようなものがあるのでしょうか。
具体例をご紹介していきます。
代表的な活用事例としては、まずアパートやマンション経営が挙げられるでしょう。
生産緑地の多くは都市部に存在するため、宅地としての需要が非常に高くなっています。
一般的な戸建て用の土地に比べて面積が広い場合も多く、その広さを活かして賃貸用のアパートやマンションを建築すれば、大きな収益が見込めます。
また、固定資産税の削減や相続税対策としても有効です。
それほど広くない土地でも、都市部の土地なら戸建てとしての賃貸需要が大いに見込めます。
一旦賃貸したのち、自身の子供世代の住居や老後の住居とすることもできます。
初期費用を抑えた運用には、駐車場経営が挙げられるでしょう。
もし別の目的で利用したくなったとしても、駐車場契約の解除は比較的容易であり、撤収しやすいのも魅力です。
利用者から荷物を預かるトランクルームもコスト面では優秀です。
荷物が置ければよいだけなので設備も簡易的でよく、更新のための費用も抑えられます。
借り手が見つかれば退去も少なく、安定した収益が見込めることもメリットでしょう。
そのほか「シェア空き地」「シェア畑」「資材置き場」「コインランドリー」など、さまざまな活用方法が考えられます。
ちなみに、認可保育所やデイサービス、グループホームなどの第二種社会福祉事業に転用する場合は、指定解除の条件が満たされていなくても解除できる可能性があります。
生産緑地の指定解除にはさまざまなメリットがある反面、優遇もなくなるため多額の固定資産税がかかるなどのデメリットもあります。
相続税の納税猶予制度を利用している場合は、指定解除で猶予されていた相続税と利子税を納付しなければならないので注意が必要です。
来たる2022年に備え、生産緑地をどのように運用すべきか、今から対策を考えておくとよいでしょう。
 
 

こんなはずじゃなかった! 注意すべき土地相続トラブル その2

2019.1.28

前回は、先祖代々受け継いできた土地を息子さんに贈与したAさんの事例を紹介しました。
Aさんが、さらに末永く承継してもらおうと土地を託した息子さんは、離婚と再婚、そして早すぎる死を迎えることに。
その結果、土地をめぐって息子さんの前妻と後妻が相続闘争を繰り広げ、Aさんは、彼女たちからこの土地を取り戻すため、相当高額なお金を支払う羽目になりました。
Aさんは、はたしてどこで間違い、どのような点に注意していれば、このような事態を防ぐことができたのでしょうか? 
事例を振り返りながら、原因と打開策をご紹介します。

原因(1) 息子さんの将来設計を読み誤った
Aさんが若かった頃と比較して、最近は結婚や家系に対する価値観が大きく変化し、事実婚や生涯独身といった選択肢も増え、離婚に対するハードルもずいぶんと下がりました。
息子さんが結婚して妻子を持ったからといって「これで○○家は安泰だ!」とはいかない時代になっていたのです。
むしろ「将来何が起こるかわからない」という前提で対策を立てておかなければ、今回のように将来設計を見誤ることにもなりかねません。
原因(2) 息子さんとの関係性を読み誤った
Aさんは、長男だからという理由だけで、先祖代々受け継いできた土地をわが子に託しました。
しかし、息子さんが再婚し、Aさんの意向に反して子をもうけなかったため、Aさんと息子さんとの関係にひびが入ってしまいました。
Aさんと息子さんとの関係性が良好であれば、話し合って土地を取り戻すこともできたかもしれません。
しかし、いくら親子でも疎遠になってしまっては、他人以上にコミュニケーションが取りづらくなるものです。
「家族だから」「長男だから」という理由で安易に財産を譲るのではなく、血のつながりのある近しい関係だからこそ、万が一トラブルが発生した場合に備えて対策を立てておかなければなりません。
 
それでは、Aさんが先祖代々の土地を守り、次世代に受け継いでいくためには、どうすればよかったのでしょうか?
次に、打開策を考えていきます。
 
打開策(1) 遺言書を準備しておく
親が元気なうちは、自身の手で土地を守っていくのが賢明です。
自身だけでは守り切れない場合、専門家等の第三者や信頼できる親族に管理を任せるとしても、所有権は親の元に残しておき、万が一トラブルが生じた場合にはいつでも自身の手元に戻せるようにしておきましょう。
他方で、親に万が一のことがあった場合に備えて、その時点で親が希望する承継先に土地を譲ることができるよう、遺言書を残しておきましょう。
遺言書で定めておけば、万が一承継先との関係性や将来設計が変わり、承継先を変更したいと考えた場合にも、ご両親の意向で遺言書を書き換えることができます。
遺言書は、一度作成したから終わりというものではなく、何度も書き換えられるところに大きな意味があります。
 
打開策(2) 信託契約書で土地の管理を託す
次に、親の高齢化によって判断能力が衰えてきた場合は、土地の管理を信頼できる親族や第三者に委ねましょう。
その際、親が存命中は老後の生活資金の確保に重点を置き、親が亡くなった後は希望する承継先に土地を譲ることができるよう、信託契約書を残しておくとよいでしょう。
信託契約書で定めておけば、土地の管理を委ねられた受託者は契約上の責任を負いますので、親が認知症などで判断能力を失ってしまっても、元気なうちに残されていた意思に基づいて土地を管理し、親の老後の資金も確保することができます。
親が亡くなった後も、信託契約書では、次世代、次々世代の承継先を定めておくことができるので、先祖代々の土地を後世にも守ってもらいたいと考える親にとっては、遺言書よりも信託契約書の方が、その意思を死後に実現していくことが可能です。
 
相続対策は、まだ元気なうちにこそ、老後のことから亡くなった後のことまで考えて始めるようにしておきましょう。
そして、対策は一度したら終わりではなく、状況の変化に応じて、
自身の意思をより実現しやすい方法に切り替えながら続けていくことが大切です。

 

こんなはずじゃなかった! 注意すべき土地相続トラブル その1

2018.12.21

土地の相続をめぐるトラブルはいつの時代も存在します。
息子に土地を相続したはずなのに、自身の思惑とは違った方向に事が進み、「こんなはずじゃなかった!」という事態に陥って困っている方もいらっしゃると思います。
今回は、ある家族の土地相続トラブルの事例をご紹介するとともに、その原因や打開策を全2回にわたって解説していきます。
●息子の離婚と再婚、そして……
【事例】
Aさんの息子さんは、適齢期に結婚し、孫息子が生まれていました。
しかし家事分担や育児で徐々に奥様と口論になることが増え、夫婦関係が悪化。
やがて息子さんの浮気が発覚したこともあり、最終的には離婚することになりました。
離婚の際は、夫婦で築き上げた財産を分け合う財産分与を行いますが、息子さんがAさんから託された土地については、夫婦で築き上げた財産ではなく、財産分与の対象にはなりません。
そのため、土地は息子さんの手元に残りました。
しかし孫息子は、親権者に母親が指定されたため、前妻の元で育てられることになりました。
息子さんは離婚後まもなく浮気相手と再婚しましたが、家事分担や育児が原因で前の結婚が破綻したこと、後妻となった女性も仕事の継続を望んだことなどから、今回の結婚では子どもをつくらないという選択をしました。
Aさんとしては、A家の後継者を残すためにも早く孫の顔が見たいと、息子さんや後妻を急かしました。
しかし逆に2人の反発を買い、親子関係がこじれてしまいます。
Aさんが「そんなことなら、お前にやった先祖代々の土地を返せ!」と怒鳴りつけても、息子さんは聞く耳を持ちません。
そうこうしているうちに、息子さんは不慮の事故で早すぎる死を遂げてしまいました。
遺言書はなかったため、息子さんが受け継いだ土地のうち半分は離婚した前妻の元で育つ孫息子の、もう半分は後妻のものに。
しかし取り分をめぐって、前妻と後妻の間で相続闘争が繰り広げられることになってしまいました。
●買い戻すしかなかった土地・事前の対策はあったか
 
孫息子はA家の血筋ですから、前妻が受け取った半分の土地は、彼のものといえます。
しかし現在は小学生と幼く、また前妻のもとで育てられており、土地は事実上、前妻が受け継いでいることと変わりありません。
そして前妻がその土地を売却してしまえば、土地は第三者の手に渡ってしまうことになります。
せっかくこれまで受け継いできた土地が半分に減らされるばかりか、ゆくゆくはそれも失われてしまうかもしれない――このことを危惧したAさんは、息子さんの前妻からも後妻からも、土地を取り戻すことを強く希望しました。
しかし、この時点で土地はすでに息子さんの手に渡り、その息子さんも亡くなって相続が発生しています。
Aさんができたのは、前妻と後妻の2人から土地を買い戻すことだけでした。
最終的に土地はAさんの手に戻りましたが、市場価格と比較しても相当高い金額を支払わざるを得ませんでした。
 
Aさんは一体、どこでどのような間違いを犯してしまったのでしょうか?
そして、どこに気をつければ、このような事態を防ぐことができたのでしょうか?
 
次回は、今回の事例をもとに、原因や打開策をご紹介します。

 

知っておくべき3つの相続方法

2018.11.21

相続人が確定し、遺産の概要が判明した場合、それらをどう分けるかが重要になります。
その財産がプラスなのかマイナスなのか、また、プラスならそれが多いのか少ないのかによって、遺産を分ける際の考え方も変わってきます。
今回は、相続方法に3通りある『単純承認』『限定承認』『相続放棄』について、おさらいしてみましょう。
①単純承認
一般的に“相続”と言われるのが『単純承認』です。プラスの財産(不動産や預金など)であれ、マイナスの財産(借金等)であれ、被相続人の遺産をすべて引き継ぐのがこの方法で、「相続放棄や限定承認などという制度を知らずに何もしなかったため、
または、勝手な処理をしたため、単純承認になってしまった」などのケースもあります。
相続放棄や限定承認の可能性があるのであれば、相続が始まったらすぐに専門家に相談して準備を開始することが重要となります。
②限定承認
遺産として相続したプラスの財産の範囲内で、マイナスの財産を相続するのが『限定承認』です。
これは「プラスの財産とマイナスの財産、どちらが多いか分からない」「遺産の中に、どうしても取得したい財産がある」などの場合に有効です。
一方、この限定承認は、相続人全員で行わなければならないため、時間と手間がかかります。
また、限定承認をすると“相続財産管理人”が選任され、遺産の調査が行われますが、
相続財産管理人は必ず相続人の中から選ばなければならないため、この点についても事前に調整が必要となります。
相続財産管理人が行うべき手続きに関しては、弁護士等の専門家に委任することができるので、
その場合の処理は弁護士等が行うことになります。
 
③相続放棄
『相続放棄』とは、プラスの財産もマイナスの財産も一切相続しないという方法です。
遺産が明らかに債務超過(プラスの財産よりも、マイナスの財産のほうが多いなど)である場合や、
遠縁の相続であるなどの理由から、相続に一切関わりたくない場合に利用します。
この相続放棄は相続を開始したことを知ったときから3ヶ月以内に裁判所に対して申し立てをする必要があるので、
相続放棄を考えているのであれば、早めに対応することが重要です。
ただし、一定の事情があれば、3ヶ月を経過した場合でも相続放棄を申し立てることができます。
相続案件には、このように「知っている」と「知らない」では大きく違いが出るタイミングや事案があります。
「過ぎてしまった」「知らなかったからしょうがない」とあきらめずに、
相続案件の経験豊富な専門家に相談し、納得のいく対応策を探してください。

 

遺言がある場合の相続手続きは?

2018.10.8
相続対策として『遺言』を残そうとされる方は多くいます。
しかし、死後に相続手続がどのように進んでいくのかを理解しておかないと、意図する通りに財産を残すことができなくなるかもしれません。
今回は、遺言が残されている場合の相続手続きの流れについて、詳しく解説します。
1)自筆証書遺言は検認手続が必要に
被相続人が亡くなった後、自筆の遺言(自筆証書遺言)が存在する場合には、その遺言の発見者や保管者は、家庭裁判所に対して、遺言の検認手続の申立てをしなければなりません。
検認手続は、発見後の遺言書の偽造・変造を防ぐために行われるものであり、家庭裁判所は、遺言書の要旨、筆記用具、内容、日付、署名、捺印の情報を記録します。
遺言書に封がされていても、されていなくても、検認の申立てはしなければなりませんが、封がされている場合には、開封せずに検認を申し立てなければなりません。
開封してしまった場合には、開封した者に対し、5万円以下の過料(行政罰)が科されます。
また、開封した場合、それが間違ってやってしまったものであったとしても、遺言が偽造ないし変造などされたのではないかという誤解が生じ得ますので、相続人の方は注意が必要です。

 

なお、遺言がない(または見つからない)場合には、

当然、法定相続人の間での協議によって遺産分割の内容を定めるということになりますが、
相続人間の協議による遺産分割手続が終了した後に遺言書が発見されたという場合は厄介なことになりがちです。
相続人全員で、それまでの協議に基づく分割内容でよいと合意ができればよいですが、誰か一人でも異を唱えたときには、遺言に基づいて、遺産分割をやり直さなければいけなくなります。
このような可能性もあるので、被相続人となる方は、自筆証書遺言を遺すならば、遺言の存在が明確になるように、信頼できる人に預けたり、保管場所を知らせておいたりする必要があります。
また相続人においては、後々に手続のやり直しということにならないよう、被相続人が亡くなったら、まずは遺言が残されてないかを念入りに確認しておく必要があるでしょう。
2)検認をしなくてもよい公正証書遺言とは?
検認手続が必要なのは、自筆証書遺言を残した場合です。
『公正証書遺言』を残した場合については、検認手続が要求されません。
これは、公証人という法律の専門家が内容をチェックして作成されるため、形式面の審査が不要と考えられるからです。
また、公正証書遺言については公証役場に原本が保管されます。
そして、相続人が被相続人の亡くなった後に公証役場に問い合わせると、被相続人が公正証書遺言を作成しているかどうかを検索してもらうことができ、作成されている場合には、遺言書の謄本の交付を受けることもできます。
そのため、万が一、被相続人の手元にあった遺言書が紛失していたとしても、遺言を確認できるので安心と言えます。
ただし公正証書遺言は、遺産の額に応じた作成費用がかかりますし、公証人の面前で証人2名の立会いのもと作成しなければなりません。
形式的要件を満たせば自分だけで作成ができる自筆証書遺言と比べると、手間もコストもかかるので不便といえば不便です。
なお、先日成立した民法の相続法分野の改正によって、自筆証書遺言の形式に関する要件が緩和されるとともに、自筆証書遺言を法務局に保管してもらえる制度が創設されました。
そして、この自筆証書の保管制度を利用する場合には、遺言の検認も不要とされています。
改正法は2020年7月までに施行されることになっていますので、改正法の施行後は、この遺言の保管制度を利用することも選択肢の一つになるでしょう。
もっとも、この制度も、第三者によるなりすましなどの防止のため本人が法務局に赴いて手続きをする必要があるなど、一定の手続的負担があります。
また、自筆証書である以上、遺言の内容に法律上の問題がないかについては留意する必要があります。
いずれにせよ、相続の生前対策は、専門家のアドバイスをよく踏まえて行うことをおすすめします。
 

引っ張り続けたその会社、後継者に引き継がせるには?

2018.9.20
 
株式会社の“おひとり社長”が、自分の死後、特定の者に会社の事業を引き継いでもらいたいと考えている場合、                                                    どのような相続対策をしておけば安心でしょうか?
1)株式をすべて相続させるだけでは不十分!?
例えば、「長男を後継者として自分の事業を引き継いでもらいたい」と考えている場合、個人事業主であれば、                                                    事業に関わる全財産をその者に相続させる旨の遺言書を書いておけば、後継者が事業を引き継ぐことができるので、対策としてはこれで完了です。
ところが、株式会社の場合、会社の事業そのものや経営権の相続というものがありません。個人事業の資産とは異なり、                                        株式会社の資産は、それ自体が独立して存在するものとされているからです。そのため、仮に会社の全株式を後継者に相続させたとしても、              その者ができるのは、配当金の請求や株主総会の開催といった株主としての権利を主張することに限られます。後継者が社長になって経営に参加するには、取締役会や株主総会の承認が必要となるため、全株式を相続させても会社そのものを渡したことにはならないのです。
2)他の相続人にも配慮した対策が有効
それでは、「株式会社化はしているものの、実質は個人事業と変わらない“おひとり社長”で、事業を引き継ぐ特定の相続人1人に会社を譲りたい」という場合は、どうすればよいでしょうか?
その場合はまず、遺言書において、「会社の株式全部を後継者に相続させる」旨を定めておくことが必要です。
株式を複数の相続人に分けてしまうと社内で権力闘争などが起こる危険があるため、経営を安定させるためには全株式をまとめて後継者に相続させる方が無難です。
もっとも、「遺産の大半が株式」という場合、全株式を特定の者に相続させると、他の相続人の遺留分を侵害することにもなりかねません。
そのような事態を防ぐには、後継者に対し、社長の生前から株式を贈与しておくか、遺留分を侵害しない程度に過半数以上の株式を相続させる旨の遺言を残しておく対策をしておきましょう。
また、会社の入っているビルやその敷地などの不動産が社長の個人資産である場合、これも後継者に相続させようと考えがちですが、
そのような対策が必ずしも奏功するわけではありません。むしろ、社長の死後に他の相続人の反感を買って“争続”問題が生じてしまい、会社の経営も不安定になる、という事態も散見されます。
このような場合は、あえて個人資産を他の相続人に相続させ、会社から他の相続人に賃料収入が入るようにするなどの工夫をすることで、相続分の減る他の相続人の不満を解消することができます。
3)遺言書の作成・管理がより容易に
現在審議されている民法改正(相続分野)では、自身で作成する遺言書について、
これまではすべて自書しなければならないとされていたところ、相続させる財産を一覧にした財産目録を添付する場合は、
その目録について自書する必要がないとされています。
また、自身で作成した遺言書が紛失したり変造されたりすることを防ぐため、法務局で遺言書を保管することができるようにもなります。
このように、遺言書の作成・管理もますます容易になっていくことをふまえて、今のうちから積極的に相続対策をしておきましょう。
 
 

相続放棄ができるのは3か月以内!? 熟慮期間を延長できるケースとは

2018.8.19
 
前回、遺産の中に借金などの負債が含まれている場合の効果的な対処方法として、“相続放棄”をご紹介しました。
 
ただし、相続放棄をすると負債などのマイナスの財産だけでなく、プラスの財産も受け取ることができなくなります。
また、手続きに期限があるので注意が必要です。
そこで今回は、相続放棄をすることができる“時期”について詳しく解説します。
相続開始を知ってから 3か月以内が原則!
 
被相続人が亡くなった場合、原則として、3か月以内に相続放棄をするかどうかを決めなければなりません。
その根拠となる条文が、民法915条1項に定められています。
『相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から三箇月以内に、相続について、単純若しくは限定の承認又は放棄をしなければならない』。
つまり、“被相続人が死亡したこと”および“自分が相続人であること(※1)”を知ってから3か月以内に
『単純承認』(※2)・『限定承認』(※3)・『相続放棄』のうち、どれを選択するのかを決めなければなりません。
※1 相続人であるか否かは法律で定まるため、その基礎となる事実(被相続人の子であることや、自分よりも順位が上の相続人が相続放棄をしたこと)を知っていること。 
※2 プラスの財産も、借金などのマイナスの財産もすべて承継すること。
※3 相続財産のうち、“負債をプラスの相続財産で弁済(=債務を消滅)することとし(相続人自身の財産で弁済する義務は負わない)、負債などを弁済した後に余りがあれば、その財産を相続する”という留保をつけて相続の承認をすること。
 
3か月以上経っても 相続放棄ができるケースも!
 
 
(1)財産調査が終わらない場合  
被相続人が死亡して自分が相続人であることを知っていたとしても、被相続人の財産が多く、3か月では財産調査ができないといったこともあるでしょう。
そのような場合は、家庭裁判所の手続で熟慮期間(※4)を伸長することができます。
熟慮期間の伸長は民法915条1項ただし書きにて『ただし、この期間は、利害関係人又は検察官の請求によって、家庭裁判所において、伸長することができる』と定められています。
実務的には、熟慮期間は3か月ずつ伸長されますが、1回目の伸長(=3か月分の伸長)は、家庭裁判所がほぼ認めているのではないかと思います。
※4 “単純承認・限定承認・相続放棄のどれを選択するか”などの方針を決めるまでの期間。
 
(2)被相続人の死を知らなかった場合 
前述のとおり、期間の起算時は『被相続人が死亡したこと、および自分が相続人であること』を知った時です。
つまり、客観的に被相続人が亡くなったとしても、そのことを知らなければ、熟慮期間は進行しません。
このように、被相続人の死を後から知ったような場合も、(1)のケース同様、被相続人の死から3か月以上経っていても相続放棄をすることができるのです。
 
(3)特別な事情がある場合 
では、以下の事例のような、相続時に“ない”と思っていた借金が後々見つかった場合はどうなのでしょうか?
【事例】
相続人は、生前の被相続人の生活状況から、被相続人には財産も借金もないと思っていたため、被相続人が死亡した時点では相続放棄をしなかった(※5)。
 
しかし、思わぬ借金があり、請求されてしまった。
相続人からすれば、思わぬ請求を受けたため、支払いたくはないでしょう。
一方、債権者からすれば『相続人が相続放棄をしなかったのだから』と支払いを求めたくなると思います。
 
 
さて、この二者の利害関係をどう調整するかが問題となります。
この点について、昭和59年4月27日最高裁第二小法廷判決(以下、昭和59年判決)は、概ね次のように判示しています。
 
 
『相続人において相続開始の原因となる事実及びこれにより自己が法律上相続人となった事実を知った時から3か月以内に限定承認又は相続放棄をしなかったのが、相続財産が全く存在しないと信じたためであり、かつ、このように信ずるについて相当な理由がある場合には、民法915条1項所定の期間は、相続人が相続財産の全部若しくは一部の存在を認識した時又は通常これを認識しうべかりし時から起算するのが相当である』。
 
 
つまり、以下の(A)(B)の両方を満たす場合には、熟慮期間の起算時を“認識時または認識できたであろう時点”に動かせるということになります。
 
 
(A)被相続人の相続財産がないと信じたこと
(B)(A)に相当な理由がある
 
 
そのため、上記の事例では、昭和59年判決により相続放棄をすることができると思われます。
しかし、被相続人に不動産といった資産があり、相続人が所有権移転登記手続をした後に借金が見つかった場合には、昭和59年判決では救済されず、相続放棄をすることはできないでしょう。
 
 
また、“相続時に知らなかった被相続人の借金の請求”に関して相続放棄ができる期間は、
昭和59年判決によっても『認識時または認識できたであろう時から3か月以内』となるので、注意が必要です。
※5 被相続人の財産を調査してもしなくても、相続放棄することが可能。
 
 
 

財産なのに、相続してはNGなものがある!?

2018.7.27
 
親が亡くなり、相続財産は実家の土地と建物だけ。
「もらえるものは、もらっておくか」と軽い気持ちで相続した結果、とんでもない“お荷物”を背負わされてしまったというケースが最近散見されます。
後悔する前に、“本当にその財産を相続してよいか”をきちんと考えることが重要です。
1)不動産が必ずしも財産とは限らない!?
不動産といえば、プラスの財産の代表格。
現金よりも財産としての評価額を下げることができるため、相続対策としても有用です。
しかし、必ずしもそうとは言い切れない場合もあります。
たとえば、田舎にある古びた一軒家や土地。
不動産なので固定資産税はかかりますし、維持していくためには、家屋の修繕や庭の草刈りに費用がかかります。
マンションの場合は管理費や修繕費が。
売却しようにも、過疎化が進んで地方の土地建物が売れなくなった日本では、なかなか買い手が見つかりません。
このような不動産を相続してしまった結果、不動産の維持・管理にお金が消えていき、次第に生活も回らなくなって借金を重ねてしまうケースが。
さらに、生活保護を受けようにも不動産があるから受けられず、破産しようにも不動産があるから容易にはできない……という嘘のような事例が現実に起こっているのです。
2)“相続放棄”という選択もある
「そんなの、田舎に限った話でしょ?」と安心してはいられません。
高層マンションが立ち並ぶ都市部でも、不動産バブルが崩壊すれば不動産価格の下落は必至です。
また、空き家が社会問題化しつつある昨今、買い手や借り手のつかない不動産の問題は、何も田舎に限った話ではなく、都市部も含めた日本全体が抱える問題なのです。
 
では、どうすればよいのでしょうか。
 
このような事態を避けるためには、親が死んで相続が始まる前に、事前に準備しておくことがとても重要です。
まず、その不動産が売れる見込みがどれほどあるのかを定期的に調べておきましょう。
“昔は買い手がついた不動産も、時の経過とともに買い手も借り手もつかない状態になっていた”というのは、決して珍しいことではありません。
次に、その不動産を維持・管理・処分するのに、どれくらいのコストがかかるかを具体的に試算しておくことも必要です。
仮に、相続財産に金融資産があった場合、それで賄えるかどうか、賄えない場合は自己資産から出せる余力があるかも見ておく必要があります。
不動産ばかりを相続した場合、一見すると多額の財産を相続したように見えますが、それ相応の相続税がかかる上に、その維持・管理コストが結果的に金融資産を食いつぶす、なんてことにもなりかねません。
買い手もつかず、相続財産や手元資金では到底維持していけない不動産が相続財産に含まれていた場合は、最終手段として“相続放棄”という判断を選択すべきです。
 
相続放棄は、相続する財産の全体を放棄する必要があるため、“少しでも得したい”と考える方はなかなか決断できません。
しかし、軽い気持ちで相続した結果、後で泣きを見ないためには、“損切り”する勇気を持つことも、相続対策では非常に重要になってきます。
 
相続について、ご不安なことやご不明点があれば、専門家へお問い合わせください。
 
 

相続争いの代表的主張“寄与分”をご存知ですか?

2018.7.4
 
相続争いの代表的主張“寄与分”をご存知ですか?
 
・相続人たる両親と頻繁に会っていた人とそうでない人
・家業を手伝っていた人とそうでない人
・両親を献身的に看病した人とそうでない人
 
これらの人々が相続人となった場合、相続分は同じ(同額・同割合)でしょうか?
 
上記の問題は“寄与分”という制度に関係します。
今回は、この寄与分の意味や、認められるための要件の概要などをお話しします。
問題が生じる場面とは?
 
まずは、3人の兄弟の会話をもとに、寄与分の主張が生じる場面を見てみましょう。
 
一美:「私は毎週のように実家に帰ってお母さんの面倒をみてたのよ。お母さんが入院した後も頻繁に病院へお見舞いに行って看病してたんだから!             1年に1回も帰って来なかったあんた達と相続金が同じなんて不公平じゃない!」
二郎:「それは、たまたま姉ちゃんが実家の近くに住んでたからだろ。子どもが親の面倒をみるのは当たり前だし、看病したことと相続割合は関係な            いよ!」
三郎:「いや、おふくろは最後までプライドが高かったし、確かに姉ちゃんは大変だったと思う。姉ちゃんの頑張りを無視するのは不公平だよ。だけ            ど俺だって、おふくろが買った北海道のアパートの管理を任されてたんだから、アパートは俺が相続するべきだと思うけど?」
二郎:「それもお前がたまたま北海道に転勤になったからだろ。しかも管理って言ったって、不動産管理業者との事務連絡だけで、ほとんど業者に任            せっきりだったじゃないか。」
一美&三郎:「遊びまわってる二郎には言われたくない!!」
 
一美と三郎が主張しようとしているのは、法律用語でいうところの“寄与分”に関する主張です。
一美と三郎の主張は法的に認められるのでしょうか? 
それとも、自由気ままに生活してきた二郎に分があるのでしょうか?
1)寄与分とは?
では、先ほどから何度か出てきている“寄与分”について、ご説明します。
寄与分とは、民法上に定義規定はありませんが、一般的には『相続財産の維持・増加に貢献(寄与)した相続人の相続分について、他のそうでない相続人よりも優遇しようとする制度』と説明されます。
今回の事例でいえば、“一美と三郎の主張が認められるのならば、二郎よりも優遇して遺産を相続させましょう”という制度です。
では、寄与分が認められるためには、どのような要件を満たす必要があるのでしょうか?
2)寄与分が認められる要件とは?
寄与分については、民法904条の2に規定があります。
同条第1項『共同相続人の中に……被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした者があるときは、……相続分に寄与分を加えた額をもってその者の相続分とする』。
この規定をみると、寄与分が認められるためには、少なくとも以下の3つの要件を満たす必要がありそうです。
(1)相続人の行為が特別の寄与といえること
(2)被相続人の財産が維持又は増加されたこと
(3)寄与行為と財産の維持又は増加に因果関係が認められること(=寄与行為によって財産が維持・増加されたこと)
では、(1)でいう“特別の寄与”とは、どのようなことを指すのでしょうか。
この概念も民法上に定義規定はありませんが、一般的には、『被相続人との身分関係に基づいて通常期待されるような程度の貢献を超えるような貢献』と説明されます。
配偶者間や親族間には相互扶助義務があります(民法752、877条参照)。
この義務の範囲内の行為は、通常の相続分で評価され尽くされていると考えられています。
そのため、寄与分の主張を認めさせるには、親族間などで通常期待される扶助行為を超える特別の貢献が求められるのです。
3)今回のケースはどうなる?
上記を踏まえて、各当事者の主張を検討してみましょう。
 
1. 一美について
週に1回、実家に帰って両親と一緒に過ごした程度では、親族間に期待される通常の扶助行為の範囲内と評価され、寄与分の主張は認められない可能性が高いでしょう。
また、実家に帰って両親と一緒に過ごした程度では、両親の財産が維持・増加されたとも評価され難いのです。
もっとも、両親が要介護認定4ないし5程度の認定を受けて介護の必要性が高かったにもかかわらず、業者に依頼せず自身で介護していた場合は、“特別の寄与による財産の維持”が認められる可能性が高くなります。
また、両親の入院後は、専ら病院のスタッフが両親を看護するでしょうから、一美が赴いてフルーツを切ったり、トイレへ付き添ったりした程度では寄与分の主張は認められない可能性が高いのです。
 
2. 三郎について
両親に代わって両親の所有物件を管理していたという主張を聞くと、三郎は両親の財産管理行為を代替した、あるいは両親の事業に従事したといえ、寄与分の主張が認められるようにも思えます。
しかし、三郎が行った行為を具体的に検討すると、不動産管理業者との事務連絡のみであり、自身が不動産管理行為を一手に引き受けたわけではありません。
この場合は、特別の寄与行為と認定される可能性は低いといえます。
また、そもそも不動産管理業者と契約して手数料を支払っているのですから、三郎が手伝ったことで両親の財産が維持・増加したとは評価されない可能性が高いのです。
4)まとめ
道徳的に考えると、二郎は自由奔放に生活し、一美や三郎は両親を手伝っていたのですから、一美や三郎の主張を認めてもいいように思えます。
しかし上述の通り、調停や審判で寄与分の主張を認めさせるには一定のハードルがあり、感情的な主張を繰り返すだけでは寄与分を認定させることはできないのです。
“どのような事情があり、どのような資料があれば寄与分の主張が認められるのか”。
その判断は、個別かつ具体的に行う必要があります。
そのため、寄与分の主張を検討されている方は、専門家に相談することをおすすめします。
 

2020年4月施行予定――相続法改正で何がどう変わる?

昨年、民法の債権法分野の改正がなされ、2020年4月1日から施行されることが決まりました。

もっとも、法務省の法制審議会では、それに引き続き、民法の相続法分野の改正要綱案が既に取りまとめられており、この改正案は今年の国会に提出され、審議を受けることになっています。

では、相続法はどのように変わるのでしょうか? 
今回は、この相続法改正案の概要をご紹介します。 

○要綱案の内容とは?

要綱案に掲げられている改正項目は、概ね、以下のようなものです。

(1)配偶者の居住権を保護するための方策
・配偶者居住権(短期・長期)の創設

(2)遺産分割に関する見直しなど
・婚姻期間20年以上の配偶者に対する贈与・遺贈についての持戻し免除の意思表示の推定(筆者注:自宅を遺産に加えない)
・相続預金の仮払い制度(筆者注:遺産分割完了前に一定額を下ろせるようにする) など

(3)遺言制度に関する見直し
・自筆証書遺言の方式の緩和(筆者注:一部パソコンやワープロ書きでも良くなる)
・自筆証書遺言に係る遺言書の保管制度の創設 など

(4)遺留分制度に関する見直し
・遺留分減殺請求権の効力及び法的性質や算定方法の見直し など

(5)相続の効力等(権利及び義務の承継等)に関する見直し
・相続による権利、義務の承継に関する規律 など

(6)相続人以外の者の貢献を考慮するための方策
・寄与分制度の見直し など

○結局、何が変わるの?

このように改正項目は多岐にわたり、耳慣れない用語も多いと思います。
ここでは、いくつか目立ったものをご紹介します。

まず、“配偶者居住権”の創設です。
たとえば、相続財産の大半が不動産で、預貯金などがあまりない場合、被相続人(亡くなった人)の配偶者が遺産である不動産(自宅)に住み続けたいと思っても、その他の相続人(子など)が法定相続分通りの相続を望んだ場合は、不動産を売却して遺産分割に充てざるをえなくなります。
このような場合に対応するための権利が、“配偶者居住権”です。

また、“自筆証書遺言の方式の緩和”という内容も改正項目に入っています。
現行法では、自筆証書遺言は、その全文を遺言者自身が自分で手書きしなければならないとされています。
しかし、自筆で書くことができない高齢者や、書く力があっても遺産の数が多くて財産の目録が膨大になる場合には、手軽に遺言を残せません(そのような場合、公正証書遺言を作成します)。
“自筆証書遺言の方式の緩和”には、このような不都合を改善する目的があります。

ほかにも、相続預金の取扱いなども改正が予定されています。

昨年、相続預金の取扱いについては、最高裁判所の判例が出されているところでもあるので、それと合わせ、金融実務に与える影響は少なくないでしょう。

○まとめ

今回は、相続法改正要綱案のごく一部を紹介しました。
実際に改正法が施行されるのは、法案が国会の審議を通過し可決された後なので、まだ先の話です。
しかし、改正がなされれば、相続対策や遺産分割手続にも影響が出てくるものと思われるので、念頭に置いていたほうがよいでしょう。

『花咲か爺さん』の遺産が”ポチ”だったら② ―信託制度の利用について―

前回、『花咲か爺さん』の遺産が”ポチ”だったら? という仮定のもとで、お話をしました。

「息子に託すにしても、ちゃんと世話をしてくれるのかどうか……」。
そんな不安に応える策として近年注目されているのが、”信託”という制度の利用です。

第2回の今回は、『花咲か爺さん』の登場人物を例に”信託”について、ご説明していきます。

 1)”信託”とは?

“信託”とは簡単にいうと、委託者(この場合はおじいさん)が信頼できる人(=受託者)に財産を移転し、受託者が委託者の設定した信託目的に従って、その財産の管理や処分などを行う制度のことをいいます。

では、『花咲か爺さん』を例に見ていきましょう。
おじいさんは、元気なうちに息子と下記のような”信託契約”を結びます。

まず、おじいさんは息子に対し、
(1)ポチが天寿を全うするまで、お金をきちんと管理すること
(2)ポチの飼育を信頼できる団体などに委ね、飼育状況を管理し、必要な飼育費用を支払うこと
(3)管理しているお金の中からポチの飼育費用を支払うこと
を委託します。
そして、”ポチが天に召されたら、残ったお金を息子が受け取れる”という仕組みにするのです。

2)お金の管理とポチの世話を分離する!

この仕組みの最大の”肝”は、お金の管理とポチの世話を分離するところにあります。

おじいさんとしては、”遠く離れた息子が本当にポチの世話をしてくれるかどうか”が心配です。
そのため、ポチについては”息子よりもポチを大切にしてくれる人”に任せた方が安心でしょう。

しかし、その人にポチのためのお金まで委ねてしまっては、お金に気を取られてポチのお世話が疎かになる不安があります。
そこで、お金は息子に委ねて管理を依頼するとともに、ポチが元気なうちは使い込まないよう信託契約で拘束しておきます。
その一方で、ポチが死んで天国でおじいさんと一緒に暮らせるようになった後は、残った財産は息子のものとします。

このようにすることで、息子から見れば”ポチのお世話もお金の管理もきちんとすれば、おじいさんの遺産を手にすることができる”というモチベーションを得られるのです。

3)安心して任せられる人を探しておこう!

しかし、ペットに関する問題で万能策のようにいわれる”信託”でも、越えなければならない壁があります。

それは、ペットの飼育を委託することになる、”信頼できる団体”を見つけることが、現実的になかなか難しいということです。
最近では、動物愛護団体や老犬・老猫ホームが受け皿になってくれることもあるようです。
しかし、
「家族同然に過ごしてきたポチの世話をこれまで何の繋がりもなかった団体に委ねてしまって本当に大丈夫なんだろうか……」
という大きな不安が最後まで残ります。

これは、ペットに関する悩みに限らず、”信託”という制度を利用する際には必ず向き合わなければならない問題です。
「この人に任せておけば大丈夫!」と思える人がいてくれて初めて、”信託”という制度のメリットが最大限の効果を発揮します。

相続対策においては、“メリットとデメリットのどちらも見据えて、遺言や信託などあらゆる制度の利用を考えていくこと”が、とても大切なのです。

『花咲か爺さん』の遺産が“ポチ”だったら① -遺言書だけでは不安?-

「自分が死んだ後、信頼できる人にペットの世話をお願いしたいけど、誰にどう依頼したらいいんだろう……?」

近年、頼れる身寄りがなく、猫や犬といったペットと2人(=1人と1匹)で暮らしている高齢者も少なくありません。
このような方にとって、ペットは家族と同等もしくはそれ以上に大切な存在だといいます。

今回は『花咲か爺さん』にそって、“ペットを遺す際の遺産相続の準備”についてご紹介します。 

1)もしもペットを遺すことになったら……?

♪“裏の畑で ポチがなく
正直じいさん 掘ったれば
大判 小判が ザクザク ザクザク”

これは、童謡『花咲か爺さん』の一節です。
『花咲か爺さん』は、心優しいおじいさんが、飼い犬“ポチ”のおかげでお金持ちになる、というお話。
昔話では、ポチは隣に住む欲張りなおじいさんに殺されてしまいますが、童謡ではその辺りが明らかにされていません。

仮に、ポチが殺されず、飼い主のおじいさんよりも長生きした場合、どうなるのでしょうか?
「自分が死んだ後、我が子のように可愛がってきたポチの面倒をちゃんと見てくれる人はいるんだろうか?」
「欲張りなおじいさんに、いじめられたりしないだろうか?」
と、おじいさんは心配で仕方ないでしょう。

2)遺言書だけでは効力がない!?

実は、近年こういった悩みを抱える方が多いようです。
解決策として最初に思いつくのが、“誰か信頼できる人にお願いしてはどうか?”という案です。

仮におじいさんに疎遠になっている息子がいたとします。
しかし、ほとんど顔を見せない息子にポチの世話をお願いしたとしても、本当に世話をしてくれるでしょうか?

では、遺言書を作成し、十分なお金を遺す代わりにポチの面倒を見るようお願いしてみてはどうでしょう。
しかし、これでもまだ、おじいさんとしては不安が残ります。
息子さんがおじいさんの遺言に反し、ポチの面倒を見ず、お金だけ持っていったとしても、ポチを救ってやれるおじいさんは、もうこの世にいません。

ペットの世話というのは、実際にそのペットと一緒に住んでいた人や、ペットを飼ったことのある人でなければ、いざ飼おうと思っても上手くいくとは限りません。

そこで、このような問題を解決する万能策として近年注目されているのが、“信託”という制度の利用です。

信託制度を利用して、どんなことができるのか……?
その肝となる部分は丁寧に解説することが必要なので、次回をお楽しみに!

遺産相続時、兄弟が仲違い……共有持分権のある土地・建物の行方は② ~使用料は請求できる?~

2017.12.24

弟の二郎が兄の太郎に対して怒りをあらわに声を荒げています。
 「オイ兄貴、早く家を売って遺産を分けてくれよ!」

しかし太郎は「俺はずっと親父とお袋と、この家を守ってきたんだ。この家は売らないし、親父達の面倒を看てこなかったお前には一銭も渡さない!」と応えます。
そして、遂に二郎は「そうかい。それなら弁護士を雇って、まずは兄貴を追い出してやる。覚悟しろよ!」と言い放ち、その場を去ってしまいました。

前回、被相続人(親父)と同居していた相続人(太郎)に対して、他の相続人(二郎)は遺産たる不動産の明渡しを要求できるのか? 逆に、太郎は家に居座り続けることができるのか? 
という問題に対して、共有者の一人である弟の二郎が「土地と家を明け渡せ!」と要求することはできないと説明しました。

二郎は、 「兄貴を追い出せないことは、わかった。だけど俺にも権利があるのに、兄貴だけが使い続けるなんて不公平じゃないか。俺の権利分の家賃を払えよ!」 と言い出しました。
さて、相続した家に住む太郎に対し、二郎は使用料を請求することはできるのでしょうか?

 ①問題の設定
問題を単純化すると、先に使用していた太郎だけが得する“早い者勝ちのルール”では、あまりに不公平です。
民法249条にも、『各共有者は、共有物の全部について、その持分に応じた使用をすることができる』という限定文言があります。
つまり、太朗の持分(不動産の1/2)を超えた、二郎の持分部分については、何らかの補償がなされるべきなのです。

②原則
では一旦、今回の事案から離れ、原則的な説明をします。
本件のような相続問題ではなく、共有者同士がお金を出し合って不動産を購入した例を想定してください。
この場合、不動産を占有していない共有者は、民法703条の『不当利得の返還義務』により、不動産を占有している共有者に対して、自己の持分に応じた使用料の請求が認められます。
共有者全員が、“共有物の全部”を使用する権利があるにもかかわらず、特定の共有者だけが全てを使用しているのは、他の共有者の利益を侵害し、“使用権限を享受している部分がある”ということになります。
そのため、他の共有者の持分部分について得た利益は不当なものと考えられるので、他の共有者は全部使用している共有者に対して、不当利得の返還請求が認められます。

③本件の特殊性
①②ともに同様の結論となりました。しかし、本件には特殊な事情があります。
それは、太郎が被相続人である親父と長年同居し、親父が亡くなったときも一緒に暮らしていたという事情です。
現在の裁判実務では、この“事情”が最大限尊重されます。

『共同相続人の一人が相続開始前から被相続人の許諾を得て遺産である建物において被相続人と同居してきたときは、特段の事情のない限り、被相続人と右同居の相続人との間において、被相続人が死亡し相続が開始した後も、遺産分割により右建物の所有関係が最終的に確定するまでの間は、引き続き右同居の相続人にこれを無償で使用させる旨の合意があったものと推認されるのであって……遺産分割終了までの間は、被相続人の地位を承継した他の相続人等が貸主となり、右同居の相続人を借主とする右建物の使用貸借契約関係が存続することになるものというべきである』(最高裁判所 小法廷 平成8年12月17日判決参照)。

つまり本件事案に当てはめると、遺産の最終的な所有関係が確定するまでは、『“太朗は遺産である不動産に無償で住み続けてよい”という合意が父親と太郎との間にあった』と推認されるのです。
合意をした父親の地位を二郎も相続しているので、二郎が貸主、太郎が借主の『使用貸借契約』(=無償で使用してよいという契約)が存続します。

④その後の問題
今回の検討では、二郎は太朗に対し「出て行け」とも「使用料を払え」とも主張できない結果となりました。
そのため、太朗はこのまま遺産を使用し続けられますが、二郎は諦めるしかないのでしょうか?

この先はまさに弁護士の出番ですので、法律相談に行かれることをおすすめします。
お困りになっているあなたの代わりに、速やかに遺産分割協議を始めます。

 

遺産に不動産が含まれる場合、どう遺産分割する?

相続手続きでは、遺産の多寡や不動産が含まれているかどうか、あるいは相続人の人数や相続人同士の関係によって、どのように遺産分割を行うのかが大きく変わってきます。

ここでは、遺産の中に不動産が含まれる場合の3つの遺産分割方法について、説明していきたいと思います。

 

相続人はABCの3人とします。

 

1.現物分割

「現物分割」は、3つの分割方法の中で最も一般的な分割方法です。
甲不動産はAが、乙不動産はBが、預貯金はCが相続するといったように、「現物」で分けることをいいます。

しかし、現物分割の場合、それぞれ相続するものの価値を同一とすることが難しい、というデメリットがあります。預貯金がある程度あれば良いのですが、遺産が不動産のみの場合、全てが同価値ということはまずないので、厳密に平等にはならないことが多いのです。

2.換価分割

相続財産を現金に換金した上で、金銭でそれぞれ分配する方法です。
ケースバイケースではありますが、遺産が甲不動産のみだった場合、現金化して相続人3人で分配するという、この方法が、全員が納得することが多いです。

具体的にはどうすればいいのでしょうか?

(1) 相続人ABCのうち、手続き上、一旦Aのみ所有者とする相続登記を行い、それから売却する
(2) 相続人全員名義で相続登記を行い、それから売却する

といった2方法があります。

(1)の場合、Aのみの名義にしますので、遺産分割協議書で、売却後の代金を3人で分配する旨を記載しておく必要があります。
必ず、司法書士や税理士など専門家に相談してから行うようにしましょう。

なお、不動産の売却には時間と手間がかかりますので、それがこの方法のデメリットといえるでしょう。

3.代償分割

「代償分割」とは、Aのみが甲不動産を相続する代わりに、BとCへ相続分に応じた現金を支払うことをいいます。
例えば、甲不動産に6000万円の価値があった場合、AはBとCへ2000万円ずつ支払うことになります。

この場合、Aには手持ちの現金がなければなりませんので、なかなか難しいことが多いです。

4. まとめ
不動産が含まれるケースでの分割方法について書いてきましたが、実際には、不動産を3分割して現物分割をしたり、現物分割と代償分割を併用したりといったように、さまざまな様態があります。

遺産分割協議時には、ぜひとも専門家へ事前に相談するようにしましょう。

もしも「わらしべ長者」の長者さんに息子がいたら…!? 相続対策は今そこにある危機

「父さんも母さんも元気だし、我が家ではまだまだ先の話…」
なんて、高をくくってはいませんか? 

相続問題は“争族”問題。
今、そこにある危機だと捉えて対策しておくべきです!

 1)「わらしべ長者」は“争族”問題のはじまり!?

昔々、あるところに、正直者だが貧乏な男が住んでいた。この男、観音様のお告げにしたがい、一本の藁を使って、最終的には長者さんのきれいな娘さんと全財産をもらったとさ。めでたしめでたし。
「わらしべ長者」のハッピーエンディング。

ところで、仮にこの長者さんに息子さんがいた場合、この話はハッピーエンドで終わったでしょうか?

息子さんからすれば、長者さんの家系で代々受け継がれてきた財産を、突如出現したどこの馬の骨ともわからない男にすべて持っていかれたわけですから、さぁ大変。

“父さんも、こんな男に全財産をあげるなんて、呆けてしまったのだろうか…こんなことなら、事前に我が家の財産をどうするか話し合っておけばよかった…”と、さぞかし後悔したことでしょう。

しかし、こうなってしまってはもう、後の祭りです。

…と、有名な昔話を取り上げてみたのは、歴史の“if”がおもしろいからというわけではなく、これと似たようなご相談を受けることがよくあるからです。

「父が、素性の知れない第三者の口車に乗せられて、いつのまにか自宅を売ってしまっていて…」
「母が、気づかないうちに預金を引き出して、電話をかけてきた『オレだよ、オレ』と名乗る男に言われるがまま振り込んでしまって…」

こうなってしまうと、周囲が気づいてからではもう遅い、というケースがほとんど。
手の打ちようがなく、何もできないのです。

2)“晴天の霹靂を予防するための相続対策”の重要性

このような事態を招く最大の原因は、家族や会社で築き上げてきた財産を、今後どう管理し、将来に残していくかをよく話し合っておかずに放置した点にあります。

高齢になっていく父や母に財産の管理を任せっきりにしておくと、気づいたときには2人とも判断能力が衰え、財産を散逸している…ということは、決して他人事でもなければ、昔話の世界の話でもありません。

特に日本人は、両親が存命のうちに亡くなった後の話をすることをタブー視する風潮があるせいか、両親の死後、相続人間で遺産をめぐって大いに争う「争族問題」が勃発するケースが非常に多く見られます。

そのほとんどは、事前に関係者同士で話し合いをしていれば防ぐことのできたトラブルばかりです。

「わらしべ長者」の長者さんのご子息のようなことにならないよう、ぜひ “トラブルを予防するための相続対策” に目を向けてみませんか?

「相続対策」といえば相続「税」対策を考える方が多いですが、親族間のトラブルを防ぐ予防策として考えることの重要性が、昨今ますます高まっています。

そして、このようなトラブルを事前に防ぐ最善かつ最先端の方法として最近注目されているのが、「民事信託」という制度の利用です。

3)判断能力が衰えても財産所有者の目的通りに管理・処分ができる

「わらしべ長者」の長者さんは、「自分の判断能力が衰えたら、財産が散逸してしまうのでは」と心配していました。
そこで何か手は打てないかと考え始め、たどり着いたのが今話題の“民事信託”という制度だったのです。

民事信託とは、財産を持っている方(長者さん)が信頼できる家族に財産を託し、目的に従って管理・処分してもらう制度です。

長者さんは、「代々受け継がれてきた長者一家の財産を将来にわたって引き継いでいく」ことを目的として、息子さんに財産の管理・処分をするようにお願いしました。
ただし、財産から生じる利益(例:長屋の店賃)などは、引き続き長者さんがもらい、隠居後の生活費に充てることにしています。

まだ若い息子さんに全財産を託してしまうと、「息子さんが慢心して、財産を食い尽くしてしまうのでは?」と思われる方もいらっしゃるでしょう。
しかし、民事信託にその危険はありません。
なぜなら、息子さんは長者さんが定めた目的に従って、財産を管理・処分する義務が課せられるからです。

すなわち、長者さんが定めた「代々受け継がれてきた長者一家の財産を、将来にわたって引き継いでいく」という目的から外れた財産の使い方を、息子さんはできないのです。

民事信託を活用することは、息子さんに家業を継いでもらうための事前準備にもなり、店賃などの利益を引き続きもらう長者さんにとっては一石二鳥どころか三鳥、四鳥のうまい話となります。

4)息子さんは財産が奪われるのを防ぐことができる

今度は視点を移して、息子さんの立場に立って民事信託を見てみましょう。

「長男だから」という理由だけで、息子さんは代々受け継がれてきた財産を押し付けられ、目的にそって管理・処分をしなければいけないという義務を課せられました。
この義務に違反すると、損失を補填する義務を課されるケースもあります。
息子さんからすると、財産から生じる利益を得られないにもかかわらず、重い義務だけ課されている形です。

ただ、民事信託は息子さんとってデメリットばかりではありません。
「争族問題を予防できる」というメリットもあるのです。

たとえば、「わらしべ長者」の主人公のような男が突如現れ、長者さんの財産が奪われそうになったとしても心配ありません。
財産はすでに息子さんの手の中にありますから。

5)不動産所有者は民事信託を活用すべき!

相続で最も相談が多いのは不動産に関する問題です。

高齢になった長者さんが病で倒れ、判断能力が急に衰えてしまった場合、長屋を処分して長者さんの治療費を捻出することはできません。
家族とはいえ、息子さんが長者さんの財産を勝手に処分することは許されないからです。

でも民事信託をしていれば、長屋を管理・処分する権限は息子さんにあり、目的にそう範囲で長屋の処分を検討できるのです。

6)民事信託は相続税対策にはつながらない

ここまでメリットについて述べてきましたが、民事信託のデメリットはあるのでしょうか?

1番大きいデメリットは、特に節税効果がなく、相続「税」対策にはならない点です。
また、制度が少し複雑で、多くの関係者を巻き込むことも頭に入れておかなければいけません。

相続問題は事前に関係者で話し合っていれば、防げるトラブルが多くあります。

相続トラブルの予防と考え、制度の申請が多少複雑だったとしても民事信託を利用してみてはいかがでしょうか。

遺産相続時、兄弟が仲違い……共有持分権のある土地・建物の行方は!

弟の二郎が兄の太郎に対して怒りをあらわに声を荒げています。
「オイ兄貴、早く家を売って遺産を分けてくれよ!」

しかし太郎は「俺はずっと親父とお袋と、この家を守ってきたんだ。この家は売らないし、親父達の面倒を看てこなかったお前には一銭も渡さない!」と応えます。
そして、遂に二郎は「そうかい。それなら弁護士を雇って、まずは兄貴を追い出してやる。覚悟しろよ!」と言い放ち、その場を去ってしまいました。

 【問題の設定】

事案を単純化します。
お母様はずっと昔に亡くなられていて、お父様も最近亡くなられました。相続人は2人(兄弟)だけで、遺産はご両親と長男の太郎が暮らし続けてきた土地・建物だけという設定にします。

さて、このような状況で二郎の狙いは成功するのでしょうか。

今回の事例には様々な問題点が存在しそうですが、被相続人(親父)と同居していた相続人(太郎)に対して、他の相続人(二郎)は遺産たる不動産の明渡しを要求できるのか? 逆に、太郎は家に居座り続けることができるのか? という問題に限定して考えてみようと思います。

【解答】

まず、被相続人が死亡し相続が発生すると、被相続人の財産(遺産)は、各相続人の共有状態におかれます(民法898条)。

つまり、今回の土地・建物は、“太郎と二郎が2分の1ずつ共有持分権を有している”という状態におかれます。
今回の事例では、二郎も2分の1の共有持分権を有しているにもかかわらず、太郎が土地・建物(遺産)を独占してしまっているのですから、二郎は太郎を退去させることができそうにも思えます。

しかし民法249条は、「各共有者は共有物の全部について、その持分に応じた使用をすることができる。」と規定しています。
即ち、当該共有物の共有持分権を有するものは(持分に応じたという限定文言はあるものの)当該共有物の全部を使用することができるのです。

よって、本件の遺産である土地・建物の共有持分権を有している太郎が、土地・建物の全部を独占していても、これは正当な使用権限の行使の範囲内であり、二郎の太郎に対する建物明渡請求等は認められないという結論になります。
なお兄弟(相続人)が3人いたとして、太郎の持分が3分の1に過ぎない状況で、他の2人の相続人から明渡請求等をされた場合でも、この結論は変わりません(最高裁判所昭和41年5月19日判決参照)。
とにかく、一部でも共有持分権があれば共有物の全部を使用することができるという決まりになっているのです(一部例外はありますがここでは割愛します)。

【さらなる問題】

では、二郎は太郎に対してお金を請求することはできないでしょうか。
二郎にも共有持分権があるにもかかわらず、太郎だけが独占するのは不公平ですから、二郎にはせめて金銭を補償すべきと考えられますね。

沖縄ならでは!「軍用地」を活用した相続の節税対策がアツイ!

相続税の節税方法のひとつとして注目されているタワーマンションですが、2017年度の税制改正でタワーマンション節税に対する規制が厳しくなってしまいました。

そこで新たに注目が集まっているのが、沖縄ならではの「軍用地」を活用した節税方法です。

一体どのような節税方法なのでしょうか?

 軍用地の借地料は年々上がっている!

沖縄には米軍の基地があることは有名です。
その米軍基地として使われている土地を「軍用地」と呼び、個人や法人の所有地を政府(防衛省)が借地契約を結んで借り上げています。

政府と沖縄県軍用地主連合会によって決められた借地料に則って、政府は年に1回、地主にまとめて借地料を支払っています。

軍用地は政治的な問題が起こりやすいので、現在のところ毎年借地料は上がっています。

国債同様、軍用地はいつでも現金化できる

「所有者が自由に軍用地を売買できるのか」と疑問に思う方がいるかもしれません。
軍用地は自由に売買することが可能で、普通の土地と同じように公図もあります。

ただし、軍用地には住居を建てられませんし、立ち入ることすらできません。

現在のところ、軍用地は半永久的に政府から返還されない可能性が高いといわれています。
言い換えれば半永久的に借り手が決まっている土地ということです。

政府が借地料を半永久的に保証していることから、国債と同様で非常に信用度が高く、いつでも現金化できる土地として非常に人気のある資産です。

軍用地の取引価格は需要によって決まる

軍用地の取引価格は、年間借地料に倍率を掛けることで市場価格が決まっています。
坪単価は関係がありません。
たとえば年間借地料が300万円の軍用地で、倍率が40倍だった場合は、1億2000万円となります。

倍率は需要によって変化します。
需要が高いのは「返還の見込みがない場所」で、反対に倍率の低いのは「返還の見込みがある場所」といわれています。

軍用地の相続税評価額

軍用地は公用地として評価しなければいけません。公用地には地上権割合が設定されます。地上権割合は40%で、この部分は借り手が負担するものとして計算されます。

相続税評価額は次のように計算されます。

相続税評価額=固定資産税評価額×公用地の評価倍率×(100%-40%)

たとえば、固定資産税評価額が3000万円で、公用地の評価倍率が1.8倍だった場合。
3000万円×1.8×(100%-40%)=3240万円となります。

相続税評価額が3240万円の軍用地が年間300万円の借地料を生み、市場取引価格の倍率が40倍である場合、前述した通り取引価格は1億2000万円です。

このように相続税評価額と実際の取引価格に大きな開きがあるので、節税効果が高いというわけです。
また、アパートやマンションの賃貸経営と異なり、半永久的に借り手が決まっているところも魅力のひとつです。
唯一の問題は、人気が高い土地なのでなかなか市場に出回ることがないところです。

軍用地を得意とする不動産会社に依頼するか、沖縄の新聞広告を地道に調べてみましょう。

 

あなどってはいけない! 中小企業の相続・承継にも争いの火種はある

会社の相続問題が「お家騒動」としてテレビで騒がれることがたまにあります。

「跡継ぎをちゃんと決めているから」
「そんなたいした会社じゃないから」
と思って、あまり気にしていない方はいませんか?

しかし実際は、会社の規模にかかわらず、相続・承継で“騒動”が起きてしまう可能性があります。

 遺言を残したからといって安心はできない

具体例を挙げながら、相続・承継の問題点を見ていきます。

・会社の株も財産も長男にすべて継いでもらうよう、遺言書に残している
一見、経営者の死後は長男が全権を握れ、うまく承継ができそうです。
しかし民法には、「遺留分」という制度が定められており、遺言で財産をもらえないとされた長男以外の相続人は、法定相続分の2分の1にあたる金額を長男に対して請求できます。
遺留分を度外視してすべての財産を1人が相続すると、ほかの相続人から遺留分請求をされ、争いにつながる可能性が高いのです。

・生きているうちに株式をあげる(贈与する)
特定の相続人の「特別受益」として、株式の価値を遺産に含めて計算する場合があります。
また、譲渡の仕方によっては贈与税が多額にかかってしまうので、贈与の方法自体にも工夫が必要です。

大企業よりも中小企業の方が争いの火種は多い?

「大企業だから『お家騒動』が起こる」と思っているのは危険です。

遺産に会社の株式がある場合、遺産分割や遺留分請求の手続をする際に、株式の金額を算定します。
非上場株式は上場株式のように市場価格が明確でないので、価格評価で揉めることが多いのです。

また、株式に価値がほとんどない場合でも安心はできません。
株式の保有数が経営権にかかわります。
経営権を取りたい相続人がいると、価値がほどんどない株式に値段をつけて売ろうとする相続人が現れる可能性があるのです。

以上の点を見ると、上場している大手企業よりも中小企業の方が相続で揉める可能性が高いといえます。

争いを起こさずに会社を承継するには、長期的な視点を持って対策を立てなければいけません。

長年尽くしてくれた部下に会社を譲りたい場合は、子どもに相続するときよりも準備と根回しに時間と労力がかかります。

「まだまだ現役だから、会社の相続・承継はまだ先の話だ」と思っている方。
そんな悠長なことを言っていられない状況は、すぐそこかもしれません。

その遺言書、本当に大丈夫? 「遺言能力」について知っておこう

相続手続きを円滑に行いたいとき、あるいは自分自身の遺志をしっかり遺しておきたいという場合に、よく使われるのが遺言書です。
最近は、テレビや書籍でも取り上げられる機会が多くなり、以前にも増して身近な存在になりつつあります。

一般的に、遺言書を作成する人は高齢者が多いものです。
認知症と明確に診断されていなくても、「物忘れが増えた」「理解に苦しむ行動が目につくようになった」というような「グレーゾーン」の高齢者も少なくありません。
そうなると、親族間で「遺言書は本当に有効なのか?」といった疑問がわいてくるでしょう。
今回は「遺言能力」について、解説します。

■「遺言能力」とは?
「遺言能力」とは、「遺言がどのような意味を持ち、どのような法的効力を発揮するかを理解できる能力」を指します。

遺言者は満15歳以上で、遺言書を作成する際に意思能力を有していれば、誰でも遺言をすることができます(民放961条)。
したがって、認知症で意思能力がなければ、その遺言書は無効ということになります。

ただ、認知症や高齢によって判断能力が低下しているからといって、必ずしも遺言が無効となるわけではありません。
高齢者が遺言書を作成する際は、後日トラブルとなるのを防ぐため、医師の診断書を取得し、医学的に判断能力に問題がないことの証明書として残しておくことをお勧めします(ただし、医師の診断書があるからといって、必ず遺言書が法的に有効となるわけではありません)。

■「被補助人」「被保佐人」「成年被後見人」の遺言作成はどうなる?
自己の財産管理に関して、援助を要する場合がある「被補助人」や、常に援助が必要な「被保佐人」が遺言書を作成する際、特に制限は設けられていません。
一方、自己の財産管理ができない「成年被後見人」が遺言書を作成する場合は、意思能力を欠く状況にあることから、特別な規定が設けられています。

成年被後見人といえども「全然話を理解していないと思っていたら、突然理路整然と話し始めた」というように、一時的に意思能力が回復することがあります。一時的に意思能力が回復した場合に、医師2人以上の立会いの下、遺言書を作成することができます。

高齢で、判断能力が疑われる状態での遺言書の作成は、慎重な対応が求められます。
できるだけ、元気なうちに遺言書を作成することで、相続対策を円滑に進められるのです  

遺言書を発見したらどうする?

今回は、遺言書を発見した場合にどのようにしたらよいのかを説明していきます。

よくテレビドラマなどで、弁護士が相続人の集まった席で遺言書を読み上げるシーンなどがありますが、実際の手続きはどうなっているのでしょうか?

■家庭裁判所で検認の手続きを行う

遺言書を生前に預かっていたり、死後に発見した場合には、すぐに中身を知りたい気持ちは理解できますが、絶対に開封してはいけません。

まずは家庭裁判所で検認の手続きを取りましょう。自筆証書遺言や秘密証書遺言の場合、検認という手続きを行わなければなりません。

一方、公正証書遺言については、検認手続きが不要です。公正証書遺言は公証人が証人2人の立会いの下で作成しており、詐欺、脅迫、偽造、変造の恐れが少ないからです。

■検認の手続きをしなければならない者
遺言書を保管している者や遺言書を発見した者は、相続開始後遅滞なく、家庭裁判所に検認の手続きを取る必要があります。

検認の手続きは義務規定です。もし、検認の手続きを取らずに遺言を執行したり、遺言を勝手に開封してしまった場合には、5万円以下の過料に処せられるので、注意が必要です。

■検認手続きの流れ
検認の申立を行うと、家庭裁判所から検認の手続きを行う日が、申立人と相続人に通知されます。

遺言書を持っている者は、遺言書を持参してその期日に家庭裁判所に行きます。そして裁判所は、申立人や相続人の立会いの下、遺言書を開封します。

■検認の効力
自筆証書遺言と秘密証書遺言は検認の手続きを取ることが必須です。

しかし、検認の手続きをしたからといって、遺言書の効力に影響するわけではありません。

遺言に偽造された可能性がある場合は、遺言無効確認の訴えを起こすなど、遺言の有効性を争っていくことができます。

以上のように、公正証書遺言以外の遺言では、「検認」というひと手間が必要となってしまいます。

自筆証書遺言と秘密証書遺言は、親族間の争いへと発展するケースが多いです。

できるだけ公正証書遺言にて遺言を作成することが望ましいでしょう。

 

「死後事務委任契約」って何?

少し前に「終活」という言葉がはやりました。

「終活」とは、死後遺された家族に負担がかからないように、自分自身を見つめ直しながら生前のうちから葬儀などの事前準備することを指します。

「終活」の1つとして挙げられるのが「死後事務委任契約」です。

以前は弁護士や司法書士などの専門家しか「死後事務委任契約」という言葉は使いませんでしたが、最近では一般の人も使うようになってきました。

死後事務委任契約とは、葬儀や埋葬、死後に関する諸手続きに関する事務を委託する契約を指します。

この委託を受けた者が、委任者の死後に各種事務手続きを行います。

死後事務委任契約は、次のような方が利用するケースが多いです。

・自分が死亡した後、親族に煩雑な相続手続きをさせたくない
・親族が遠方に住んでいる
・親族がいない
・親族と疎遠
・葬儀方法などを自分の希望通りにしてもらいたい

「自分が死んだ後は別にどうなっても関係ないや」と考えている人は少なく、事前にできることはやっておきたいという思いを持っている方が多いことが、死後事務委任契約のニーズの高まりを後押ししています。

死後事務を委託された人は、具体的に次の手続き等を行います。

・役所への死亡届の提出
・遺品の整理
・自宅の明け渡しや処分
・葬儀、埋葬、永代供養に関する手続き
・年金に関する手続き
・電気、水道、ガスに関する手続き
・親族や友人への通知

たくさんの手続きがあり、上記以外にもSNSアカウントの抹消など、細かいことまで委託できます。

遺言書を作成する場合と同様に、一人ひとりの状況に合わせて、委任契約の内容を決められます。

死後事務委任契約をする際、最も重要なのが「誰に」お願いするかです。

受任者として預かった団体が、多額の預託金を他に流用して破たんしたというニュースもあります。

お願いする相手には制限がなく、誰と契約してもよいのですが、できれば弁護士や司法書士など、ある程度信頼性が担保されている専門家のほうが安心です。

死後事務委任契約は、遺言書ほど浸透していません。

しかし、死後事務委任契約書があることで、煩雑な手続きで遺された家族を煩わせなくて済み、遺言書で伝えきれない遺志も伝えられるので、遺言書とセットで作成する人もいます。

相続対策の選択肢の一つとして覚えておいて損はないでしょう。

 

その遺言書、本当に大丈夫? 「遺言能力」について知っておこう

相続手続きを円滑に行いたいとき、あるいは自分自身の遺志をしっかり遺しておきたいという場合に、よく使われるのが遺言書です。
最近は、テレビや書籍でも取り上げられる機会が多くなり、以前にも増して身近な存在になりつつあります。

一般的に、遺言書を作成する人は高齢者が多いものです。
認知症と明確に診断されていなくても、「物忘れが増えた」「理解に苦しむ行動が目につくようになった」というような「グレーゾーン」の高齢者も少なくありません。
そうなると、親族間で「遺言書は本当に有効なのか?」といった疑問がわいてくるでしょう。
今回は「遺言能力」について、解説します。

■「遺言能力」とは?
「遺言能力」とは、「遺言がどのような意味を持ち、どのような法的効力を発揮するかを理解できる能力」を指します。

遺言者は満15歳以上で、遺言書を作成する際に意思能力を有していれば、誰でも遺言をすることができます(民放961条)。
したがって、認知症で意思能力がなければ、その遺言書は無効ということになります。

ただ、認知症や高齢によって判断能力が低下しているからといって、必ずしも遺言が無効となるわけではありません。
高齢者が遺言書を作成する際は、後日トラブルとなるのを防ぐため、医師の診断書を取得し、医学的に判断能力に問題がないことの証明書として残しておくことをお勧めします(ただし、医師の診断書があるからといって、必ず遺言書が法的に有効となるわけではありません)。

■「被補助人」「被保佐人」「成年被後見人」の遺言作成はどうなる?
自己の財産管理に関して、援助を要する場合がある「被補助人」や、常に援助が必要な「被保佐人」が遺言書を作成する際、特に制限は設けられていません。
一方、自己の財産管理ができない「成年被後見人」が遺言書を作成する場合は、意思能力を欠く状況にあることから、特別な規定が設けられています。

成年被後見人といえども「全然話を理解していないと思っていたら、突然理路整然と話し始めた」というように、一時的に意思能力が回復することがあります。一時的に意思能力が回復した場合に、医師2人以上の立会いの下、遺言書を作成することができます。

高齢で、判断能力が疑われる状態での遺言書の作成は、慎重な対応が求められます。
できるだけ、元気なうちに遺言書を作成することで、相続対策を円滑に進められるのです。

 

未登記建物の相続手続きはどうすればいい?

相続の手続きをする際には、不動産を確認するため登記事項証明書を取得して、現在の登記上の権利関係を把握します。

その中で、相続人が建物の登記事項証明書を取れないことがあります。固定資産評価証明書を取得してみると、課税の対象にはなっているものの、「未登記」と記載されていることがあります。

では、この未登記建物の相続手続きはどのように行えばよいのでしょうか?

■所有権取得後1ヵ月以内に「表題登記」を申請
まず、大原則として建物の所有権者は、所有権取得後1ヵ月以内に「表題登記」を申請しなければならないと不動産登記法で定められています。

そして、この表題登記とは、所在、地番、地目、床面積等の建物の物理的状況を公示する登記を指し、権利に関する登記の前提として行われるものを言います。

しかし、この表題登記をせずに放置されている建物は少なからず存在します。なお、表題登記をしていないからといって、固定資産税が掛からないということはなく、市町村役場はしっかりと所有者を把握しています。

ちなみに表題登記を、所有権取得の日から1ヵ月以内にしておかけなければ、過料の制裁があります。

この未登記建物を誰が相続するのか決まったら、その相続人名義で表題登記を申請します。表題登記は土地家屋調査士の分野ですから、土地家屋調査士に依頼することになります。

また、表示登記の後には「保存登記」というものを行います。これは所有権の登記のない不動産について初めてなされる所有権の登記を指します。

そして、この保存登記の業務は司法書士の分野ですから、司法書士に依頼することになります。

■未登記建物を取り壊す場合は「家屋滅失届」を提出
未登記建物が老朽化していて取り壊す場合には、「家屋滅失届」を市町村に提出します。登記している建物の場合は、法務局へ滅失登記を行えば足り、家屋滅失届の提出は必要ありません。

また、相続後も未登記のままで所有する場合には「未登記家屋所有権移転届」を市町村へ提出することになります。これは、固定資産税の納税義務者が誰かを役所が把握するために行います。

以上のように、未登記建物を相続した場合、さまざまな手続きをしなければなりませんので、ご注意ください。

 

相続でよく聞く「遺留分」とは?

不動産の相続でよく聞くけれど、イマイチよく分かっていないという用語が皆さんにもあるでしょう。

今回はそんな用語の中から「遺留分(いりゅうぶん)」についてご説明したいと思います。
本来、財産をどのように処分するかは、本人の自由というのが大原則ですが、相続人の間での公平を図る制度もあります。それが「遺留分」制度です。

財産は生きている間は当然のこと、死亡した後の処分方法についても自由に決めることができます。

代表的なところでいうと、死亡した後の処分は、遺言によって行うことが可能です。遺言は遺言者自身だけが作成でき、相続人の意見を考慮する必要はありません。

しかしながら、相続人の法的安定性にも一定の配慮が必要であり、遺言による財産処分には何ら制限がないというわけではないのです。

例えば、被相続人である男性が土地と建物を所有して、妻と一緒に住んでいたとしましょう。

男性が「土地と建物を愛人に遺贈する」旨の遺言書を作成して亡くなった場合、土地と建物は、遺言通り愛人のものになります。

場合によっては、妻は家から出て行かなければなりません。

また、住み続けるにしても、その対価を愛人に支払わなければならないケースもあります。

住所は生活の基盤となるインフラですから、そこを失うことになったら、妻は著しく酷な状況に置かれてしまいます。人情的に考えても、多くの人が妻の肩を持つでしょう。

そこで、出てくるのが遺留分制度です。被相続人である男性は、相続人である妻のために一定の相続財産を留保しておく必要があります。

また、この留保された相続財産を愛人によって侵害された場合、妻はその分を取り戻すことができるのです。

この取り戻す権利のことを「遺留分減殺請求権(いりゅうぶん・げんさいせいきゅうけん)」と言います。あくまで権利ですので、この権利を行使しなくても構いません。

■遺留分を主張できる者と遺留分の割合
遺留分を主張することができる者は、「配偶者」「子」「直系尊属」だけで、兄弟姉妹は含まれていません。

【遺留分割合】
直系尊属のみが相続する場合…相続財産の1/3
上記以外の場合…相続財産の1/2

■遺留分減殺請求の期間制限
遺留分減殺請求権は、遺留分減殺請求することができる者が、相続の開始と遺留分を侵害する贈与・遺贈があったことを知ったときから、1年で時効消滅します。

この遺留分減殺請求権は、強行法規であるものの、法的安定性の観点からは、かなり短い時効期間となっています。

時間的な側面からも、権利を行使する人と、される人との利害の調整も図られているわけです。

ポイントとしては、誰が遺留分の権利を行使できるのか、その割合と期間について覚えておきましょう。

 

相続対策として生命保険を利用する4つのメリット

相続対策は、「不動産を利用する」「毎年110万円ずつ生前贈与する」「養子縁組をする」など、さまざまな方法があります。

そのなかに「生命保険を使った相続対策」もあります。

「保険」と聞くと、結構強引なセールスや、契約時はわかったつもりでも、後々何の契約をしたのか覚えておらず実態がよくわからないことから、マイナスのイメージを持っている方が多いかもしれません。

しかし、生命保険を使った相続対策は、複雑な内容ではありません。

メリットこそあれ、デメリットはほとんどないといってよいでしょう。
生命保険が相続対策として、どんなメリットがあるのかについてご説明します。

1.相続財産が少なくなる
生命保険料を支払うことで、単純に相続財産が減少します。よって、相続税を支払うケースでは、税額も減少することになります。

2.死亡保険金の「非課税限度額」を活用できる
生命保険の死亡保険金は相続税の対象となりますが、残された家族の生活を保障するという重要な意味合いもあります。

そこで「非課税限度額」というものが設けられており、「500万円×法定相続人数」が非課税限度額となります。

この金額を超えた部分についてのみ、相続税の対象となります。

なお、契約者と被保険者が同一で、かつ死亡保険金の受取人が法定相続人である場合に限られます。

3.死亡保険金は原則遺産分割の対象外
死亡保険金は受取人固有の財産となるため、原則として遺産分割の対象とはなりません。

そのため遺産分割協議を必要とせず、「この人にはお金を遺しておきたい」という希望をかなえることができ、相続人の間のトラブルを防いでくれます。

4.すぐに現金化できる
被相続人が死亡すると、故人の口座は凍結されてしまいます。戸籍の収集や遺産分割協議書など、さまざまな書類を準備しなければ実質動かすことができません。

しかし生命保険による死亡保険金は、当然現金で受け取ることができます。葬儀費用などまとまった現金が必要となる場合に役立ちます。

今回は節税目的だけでなく、「円滑な相続を実現する」という観点で「生命保険と相続」というお話をしました。経営者の皆様や資産家の方は、ご利用を検討してみてはいかがでしょうか。

 

相続人の中に未成年者がいるケース

不動産業者の方が避けて通れないものの一つが「相続」です。売主さんから、「相続した土地を売りたいけど、名義はまだ亡くなった父親のまま」と言われるケースは、よくあるのではないでしょうか。

このような場合、売買の仲介をする前提として、相続手続きを完了させておかなければなりません。

これがなかなか大変で、労力に比して利益も少ない場合には、敬遠してしまう営業マンが多いかと思われます。

すぐに相談できる専門家のネットワークを構築しておくことはもちろん大切ですが、専門家につなぐまでのある程度の知識は必要です。

そこで、今回は、相続人の中に未成年者がいるケースをご説明します。
父親、母親、未成年の子供2人の家族で見てみましょう。父親が住宅ローンを組んでマンションを購入しており、父親が亡くなったとします。そのマンションは、法定相続分でいけば、母親が2分の1で、子供が4分の1ずつとなります。

しかし、実際はマンションの管理や税金の支払いなどは母親が行うので、通常は、遺産分割協議を行って、母親の単独名義にするケースがほとんどだと思います。

ここで、「未成年者が遺産分割協議を行うことができるか」という問題があります。未成年といっても、しっかり分別のつく19歳も未成年ですし、生まれたての赤ちゃんも未成年者です。

法律では、一律未成年者がいる場合には、家庭裁判所に「特別代理人」という人を裁判所に選任してもらい、その人が未成年者の代わりに遺産分割協議を行う、という決まりになっています。

なぜ、こんなことをする必要があるのでしょう。未成年者の場合、法律行為は親権者である母親が代わりに行います。

しかし、今回の遺産分割協議の場合、母親が未成年者に代わって話し合いといっても、実質は母親ひとりになってしまいます。

母親は自分が好きなように決定することができてしまいます。そうすると、母親と子供たちで利害の対立が生じます。これを「利益が相反する」といいます。

これでは、正しい遺産分割協議を行うことはできないので、公正な「特別代理人」が変わりに行うことになるのです。

この特別代理人は裁判所が選任することになります。選任の申立をする際、候補者を挙げることができますので、親族や弁護士、司法書士を候補者として挙げることが可能で、通常2週間程度で選任されます。

相続人に未成年者がいると、手続きとしては余計にひと手間かかり、「特別代理人」の選任が必要となるということを覚えておくとよいでしょう。

 

不動産を信託すると、どのように名義変更されるのか?

家族信託や民事信託の設定によって、不動産を信託財産に加える場合には、登記簿(登記事項証明書)に「受託者」の名前が、管理処分者権限者として記載されます。つまり、信託契約に基づき、「所有者(委託者)」から「受託者」への所有権移転登記手続きが行われます。

ちなみに、登記の目的は以下のように記載されます。

登記の目的:所有権移転及び信託
登記の原因:平成○○年○○月○○日信託
登録免許税:固定資産税評価額の0.4%(平成29年3月31日までは、土地の信託に関しては、固定資産税評価額の0.3%)

これは形式的な所有権移転といえるため、委託者兼受益者である場合には、実質の財産権は移行していません。つまり「委託者=受益者」として締結された信託契約であれば、財産権が「所有権」から「受益権」という名前に変更しただけで、信託財産の帰属先に変更はありません。

しかしながら、この後、委託者が認知証になったとしても、所有者欄には、受託者が記載されていますので、受託者の権限で不動産の売却や融資に取り組むことができます。

<信託契約時における不動産登記に欠かせない信託目録とは?>

贈与や売買を原因とする所有権移転登記と異なる箇所があります。それは、不動産が信託された場合の登記簿には、信託目録が必ず作成されます。

信託目録には、受託者が信託により、財産の管理処分権限を持つこと、そして信託で得た収益は受益者に帰属することなどが記されます。

受託者の権限だけではなく、信託の目的や開始・終了時期などの信託条項は、登記簿にすべて記載され、公示されることになります。

「受託者にどこまでの管理処分権限があるのか?」「信託監督人などの同権利者が立てられていないのか?」を不動産取引の関係者が確認できるようになっています。

このように信託条項には、詳細に決められた信託契約の内容が記載され、不正のないように配慮がなされています。ちなみに、信託条項に何を記載するのかは司法書士の判断によって分かれます。

 

信託すると財産は誰のものになるのか?

財産を信託した場合、その財産は、誰のものになるのでしょうか?

A説「信託財産は、あくまで託しているだけなので、所有者は委託者のままである」
B説「信託財産の管理、処分を行うのは受託者なので、実質的に受託者のものである」
C説「信託財産は、受益者のために託されている財産だから、受益者のものである」

さあ、みなさんは、どの説が正しいと思われますか?

信託されると、財産の名義は委託者から受託者へ移ります。なぜなら受託者は、信託財産の管理や処分を行う必要があるからです。

しかし、これは便宜上名義が変更されているだけであって、信託財産が受託者のものになったというわけではありません。

では、やはり信託財産は依然として委託者のものなのかというと、名義も管理・処分権限も受託者に託してしまっていますから、そうではありません。

したがって、A説もB説も正しいとはいえないということになります。

では、C説はどうでしょうか? 受益者は、信託されることによって、信託財産から生じた利益を受ける「受益権」という権利を取得します。

これは、あくまで利益を受ける権利を取得したに過ぎないのであって、財産そのものを取得しているわけではありません。よって、C説も正しくないということになります。

さあ、すべての説が正しくないという結果になりました。

何だかみなさまをだましたような形になりましたが、結論を申し上げますと、信託財産は誰のものかと問われれば、「誰のものでもない」が正解なのです。信託財産として、独立した状態とも言えるかもしれません。

 

なぜ、信託を活用した場合は流通税が削減できるのか?

近年、新規の法人を設立し、不動産オーナー個人が保有する賃貸物件を、法人へ所有移転するという手法が増加しています。

いわゆる、「法人化」と呼ばれています。
法人化には、次のようなメリットがあります。

1.法人に財産を移転することで、個人の財産が減り、相続税対策になる。
2.不動産所得の代わりに給与所得にすることで、所得税対策になる。

もちろん、不動産オーナー全員が上記の手段を採用することが最適かどうかは、個人の条件によって異なります。

是非、相続税対策の詳しい税理士へご相談ください。

さて、この法人化に取り組む際の課題が、流通税が高いということです。どのくらい高いのかご存知でしょうか?

例えば、固定資産税金1億円の建物を法人へ譲渡する場合を検討してみましょう。

登録免許税が200万円、不動産取得税が400万円も発生します。

ここで皆様にお伝えしてきた信託の登場です。不動産を信託した場合の登録免許税は、固定資産税評価額の0.4%です。

そして、不動産取得税は非課税です。

つまり、上記の固定資産税金1億円の建物を信託した場合は、登録免許税が40万円、不動産取得税は非課税なので、合計40万円で済みます。

この差額は大きいです。

信託の方法としては、自益信託(委託者=受益者)の設定後、受益権を売買するという手法を採用します。この時の受益権の評価は、建物の場合は、もちろん簿価評価です。受益権を法人へ売却することで、法人化と同じ効果をもたらします。

登記的な視点を考えると、信託条項の受益者欄を変更します。

登記の目的:受益者変更
原   因:平成 年 月 日売買
登録免許税:不動産1個につき 金1,000円

何より、法人化しつつ信託を活用すれば、不動産オーナーの方の認知症対策になります。さらに、不動産の処分・管理・運用は、早い段階で子供たちへバトンタッチすることができるのです。

 

信託と預貯金は何が違うのか?

「信託と預貯金は何が違うのか」というテーマを考えてみます。皆様のお金はどこに眠っていますか?

家のたんす、会社の積み立て、保険商品…とさまざまなものが想定されますが、多くの方は銀行に預けているのではないでしょうか
皆さんが亡くなると「相続」が発生し、この預貯金は法律(民法)で定められた相続人に承継されます。そして、複数の相続人がいる場合、誰がこの預貯金を取得するのかを相続人の間で話し合う必要があります(この話し合いを「遺産分割協議」といいます)。

銀行は、相続が発生したことが分かると一時的に口座を凍結させ、遺産分割協議が完了し、相続人からの手続きが行われるのを待ちます。なぜなら、この預貯金は、遺産分割協議が終わるまで、誰のものになるか分からない、宙に浮いたような状態だからです。

したがって、スムーズに話し合いが済めばいいのですが、「相続人が遠隔地に散らばっている」「相続人同士の関係が疎遠である」「相続人同士で財産の分け方がまとまらない」「認知症の方がいて話し合いができない」など、さまざまな要因で長期にわたって財産を眠らせているケースも数多くあります。

では、信託を活用した場合はどうでしょうか?
一つ例を挙げて考えてみましょう。Aさんは配偶者Bと二人暮らし。前妻との間に生まれた娘Cと、Bとの間の息子Dがいます。配偶者のBと前妻の娘Cは折り合いが悪く、自分が亡くなった後の相続手続きは、スムーズに進みそうにありません。

そこで、配偶者Bのために、当面の生活資金として、現金500万円を息子Dに信託することにしました。このとき、息子Dが自己の財産として所有している現金と、Aさんから信託された500万円は区別して管理されます。

もちろん、信託された財産を銀行に預けることもできます。その場合は、受託者D信託口座という名義で口座が開設されます。

ここで、Aさんが亡くなったとします。当然、Aさんの財産は、相続手続きの対象になり、配偶者B、娘C、息子Dが話し合って、誰が何を取得するのかを決めていくことになります。

しかし、このケースでは、信託しておいた500万円が入っている信託口座は凍結されないのです。
なぜなら、信託財産は、「誰のために何の目的で預けた財産なのか」という点が明確になっているので、相続手続きを待たずとも、定められた目的に従って管理・運用されれば良いからです。

これが、信託を利用することのメリットの一つです。遺された財産は、ともすれば長引きがちな相続手続きに左右されることなく、円滑に管理・運用することが可能なのです。

マイケル・ジャクソンも実は信託を活用していた!?

民事信託の具体的な活用例として、世界的に有名な「マイケル・ジャクソン・ファミリー・トラスト」を挙げてみましょう。

実は、アメリカでは日本とは異なり、亡くなった方の財産が当然に法律で決められた相続人へ引き継がれる「当然相続主義」を採用していません。そのため、相続財産の帰属や遺言の内容、遺産分割協議などについて、すべて裁判手続き(プロベートといいます)を受ける必要があります。このプロベートは、費用もかかる上に非常に手続きが複雑で、長い期間を要する傾向にあります。そこで、このプロベートを回避するため「リビング・トラスト」と呼ばれる生前信託が普及しています。
リビング・トラスト(生前信託)」とはその名の通り、生前に財産の名義を家族などに移す信託制度のことで、マイケル・ジャクソンも、このリビング・トラストを利用していました。

その内容をご紹介いたしましょう。まず、「遺産のすべてを生前に設立した財団『マイケル・ジャクソン・ファミリー・トラスト』に信託する」という遺言を作成しました。

信託された遺産は、その40%を母キャサリン・ジャクソンへ、40%を3人の子どもたちへ、そして残りの20%を寄付するという内容です。皆さんならもうお分かりでしょう。委託者はマイケル・ジャクソン、受託者は財団、受益者は、母、3人の子、慈善団体という構成です。

受益者である3人の子どもについては未成年であったため、成人するまでは、信託財産の中から生活費や教育費を受け取って、30歳でその1/3を、35歳で1/2を、40歳で残りの全額を自由に使えるとされており、遺された遺族の生活を長期的な視野で手厚く保護する仕組みになっていたのです。

ここで、「遺言で家族へ財産を遺せばいいのでは?」と思われた方もいらっしゃるのではないでしょうか。もちろん、遺言でも財産を遺すことはできますが、遺産は一括して承継されるため、子どもたちが財産管理能力が不十分な若いうちに、すべての財産を消費してしまうというリスクもあります。

上記のように、継続して安定的に遺産を承継できるような信託の仕組みを作っておけば、財産管理能力が十分に備わっていない未成熟な子や、身体的・精神的な障がいにより特別な配慮を要する相続人、浪費癖のある相続人への資産承継として、理想的な形を作り上げることができるのです。

 

子供がいない夫婦の相続対策には遺言書が不可欠

相続が発生した場合、「遺産がどれくらいあるのか」「相続人は誰なのか」を把握することから始まります。
 今回は子供がいない夫婦で相続が発生したときの、相続人の範囲について解説していきたいと思います。
もし、自分がまったく知らない、あるいは疎遠な親族が相続人となってしまう可能性があるならば、早急に対応することをお勧めします。

子供がいない夫婦のうち、一方が亡くなった場合の相続を考えてみます。
たとえば、夫が死亡したとしましょう。
 通常、子供がいる場合には、妻が2分の1、子供が2分の1の相続分で相続することになるので、子供がいなければ、妻がすべて相続すると思い込んでいる方が多いです。
 夫婦2人でずっと生活してきて、夫が亡くなった場合、すべての遺産が妻のものとなると考えてしまうのも無理もありません。
しかし、被相続人である夫の親が生きていれば、妻に加えて、夫の親も相続人となるのです。
この場合、法定相続分は妻が3分の2、親が3分の1となります。

夫の親がすでに死亡していれば、夫の兄弟姉妹が相続人となってしまいます。
  法定相続分は妻が4分の3、兄弟姉妹が4分の1となります。

しかし、現実的には、被相続人の親が生きているケースよりも、被相続人の兄弟姉妹が相続人となるケースのほうが多いでしょう。

問題なのは、被相続人である配偶者の兄弟姉妹が相続人になる点です。
 配偶者の兄弟姉妹と日常的に仲良く連絡を取り合っている例はあまり多くないと推測されます。
しかし、現在のお年寄り世代は兄弟姉妹が多いので、この場合には、遺産分割協議を円滑に進めることが困難になることがよくあります。

さらに、配偶者の兄弟姉妹のなかで、すでに死亡している人がいて、その人に子供がいる場合は、その者(甥や姪)も相続人となります。
こうなると、ますます厄介です。
 配偶者の甥や姪とは面識があまりないケースは珍しくありません。
 甥や姪が素行不良で浪費癖があったり、遠く海外に住んでいたり、果ては行方不明になっているケースもあるのです。
このようにコミュニケーションをほとんど取ったことがない疎遠な親戚同士で遺産分割協議を行うのは、極めて難しいでしょう。

もし、子供がいない夫婦で、両親がすでに亡くなっていて、配偶者の兄弟姉妹あるいは甥・姪が相続人となることがわかっているならば、遺言書を作成しましょう。
 「夫に(妻に)遺産のすべてを相続させる」という遺言書を書くことをお勧めします。

子供がいない夫婦こそ、相続対策が必要です。
この機会に遺言書の作成を考えてみてはいかがでしょうか。

 

こんなお悩み・ご希望はありますか?

  • 成年後見制度を利用したあとも、相続税対策をしたい方
  • 障害をもつ親族や子どもがおり、自身で財産管理ができないため、自分の亡くなった後が心配な方
  • 前妻や前夫の連れ子がいる、意思能力がない人がいる等、スムーズに遺産分割協議を行えない不安がある方
  • 株主が経営者1名のため、認知症になると経営がストップする不安のある方
  • 二次相続以降に資産継承に不安や特定の希望がある方
  • 不動産や株式を保有しており、相続が発生した場合、共有名義になる可能性がある方
  • 株式が経営者以外に
    も分散したい方
  • 経営権を引き継ぎたい
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